もう一人のY君

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絶対値の定義をきちんと理解しないとちょっとした応用でつまずく

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 今回はちょっとしたお話.

 

[Contents]
 

 

絶対値の定義

 絶対値の定義は先に書いてしまうと以下になります.

 

[定義:絶対値]

 実数 { \displaystyle x } について, 絶対値 { \displaystyle |x| } を以下のように定める.

{ \displaystyle |x| = \begin{cases} x \quad\ \ \, (x\geq 0) \\ -x \quad (x\lt 0) \end{cases} }

 

 しかし一般に「理解してもらう」うえで, しばしば「絶対値とは距離のこと」と教えることがあります.

 

thetheorier.hatenablog.com

 それは初期の理解は助けますが後々「絶対値=距離」という決めつけを与えかねないことは, 以前距離空間, そしていくつかの距離があることをもって説明しました.

 

 しかし実際には距離空間等々に触れる以前に, ちょっとした応用問題で簡単にその「イメージ」を崩壊させます.

 

 

具体例

 例えば以下のような問題を, 「絶対値=距離」のイメージでどう説明できるでしょうか?

 

[問題]

 実変数 { \displaystyle x } による以下の不等式を解け.

{ \displaystyle \Bigl||x-1|-2\Bigr| \gt 1 }

 

 これを「距離」のイメージで解くのはやや骨が折れます.

 しかし見ての通り, 問題自体は見る人によっては応用問題ですらありません.

 またちゃんとした定義に従えば, 2つの場合分けによって確実に解くことができます.

 

 

それは定義か

 理解を助けるための「喩え」や「置き換え」はかまいませんし, 寧ろ重要であったりします.

 しかしその際, それは飽くまでも例えや置き換えであることを断るべきです.

 

 定義を含め数学の主だった体系はすべて演繹, つまり一般的な前提から個別・特殊な結論を導きます.

 

 喩えや置き換えによる"それ"は, 演繹に対を成す帰納的なものとなり, 理解したそれがいつか一般を扱う際に通用しなくなる恐れがあります.

 

 

 理解するのが難しいから喩え話に置き換えるのは, 飽くまでも一時的に推奨されるべきだと考えます.

 

 教育課程の問題からでしょうか, どうしても厳密な説明は後回しになってしまうわけですが, それが高じるといつかそれに触れた時, それまでの認識が, また一部が間違いであった…という場に遭ったとき, あるいは学生が「数学嫌い」になるんじゃないかと思うのです.

 

 せめてそこまで触れないにしても, その旨に触れるだけでも, 学生の「思い込み」や「決めつけ」が多少なりとも減るのかもしれません.

 

 今回は絶対値について触れましたがそういったことは他にも見られます.