もう一人のY君

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絶対値=距離とは限らない

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  一般的な認識だったり, 理解する上ではそれでOKですけど, それに凝り固まると後々痛い目に遭います.

 この「凝り固まる」ことは今回に限らず, また数学に限らず, 学ぶ上ではやってはいけないことだと思っています.

 

 その最たる例はネットでも頻繁に巻き起こる「掛け算の順序」でもそうです.

 

 

絶対値とは

  数学における, 一般的な「絶対値」とは次になります.

 

絶対値の定義

  実数 { \displaystyle x } に対して,

 { \displaystyle |x| = \left\{ \begin{array}{ll} x  \ (x\geq 0) \\ -x  \ (otherwise) \end{array} \right. }

 と定められた「関数」{ \displaystyle |x| } のことを, 「(実数{ \displaystyle x }に対する)」絶対値と言う.

 

  そう, 絶対値とは関数なのです.

 

距離関数と距離空間

  次に距離関数, 距離空間を紹介します.

 

距離関数

  集合 { \displaystyle X } 上の関数

 { \displaystyle d : X\times X \to \mathbb{R} }

 が距離関数であるとは, 任意の実数 { \displaystyle x, y, z \in \mathbb{R} } に対して次を満たすものを言います.

  1. { \displaystyle d(x,y)\geq 0 (非負性) }
  2. { \displaystyle d(x,x)=0 }
  3. { \displaystyle d(x,y) = d(y,x) (対称律) }
  4. { \displaystyle d(x,z) = d(x,y) + d(y,z) (三角不等式) }

 

距離空間

  集合 { \displaystyle X } の上に非負値実数関数として { \displaystyle X }上の 距離関数が定められているものを言います.

  つまり距離空間とは集合 { \displaystyle X } とその上に定められた距離関数 { \displaystyle d } の組 { \displaystyle (X,d) } と言えます.

 

集合と距離の関係

 集合だけ用意しただけでは距離の概念は存在しません.

 これは部分集合の開閉や面積, (数を対象とした集合を含む)演算についても同じであり, これらは各々の集合に当たり前に定義されているのではなく, 空間を用意してそれから付属させる, というのが数学での, 特に位相空間の考え方です.

 

 僕たちは計算したり距離を考えたりする上で当たり前にそれらをあるものとして考えますが, 抽象数学ではその存在自体から議論します.

 

 そしてその下では距離はただの関数でしかありません.

 

いろんな距離

  そもそも距離は絶対値だけではありません.

 有名なものから簡単に紹介しましょう(絶対値は省略).

 

ユークリッド距離

  世の中に一番知られている距離です.

 { \displaystyle n }次元実数空間 { \displaystyle X = \mathbb{R}^{n} } における任意の2点 { \displaystyle x = (x_{1},x_{2},...,x_{n}), y = (y_{1},y_{2},...,y_{n}) } の距離として

 { \displaystyle d(x,y) = \sqrt{\sum^{n}_{i=1}(x_{i}-y_{i})^{2}} }

 と定められています.

 

  ユークリッド空間から見た絶対値は, 1次元で例えば{ \displaystyle y }{ \displaystyle 0 }に固定したもの, つまり

 { \displaystyle d(x,y)|_{y=0} = \sqrt{(x-y)^{2}} }

 と見做すことができます.

 任意の実数{ \displaystyle x }について

 { \displaystyle \sqrt{x^{2}} = |x| }

 であることは周知のことだと思います.

 

離散距離

  空間 { \displaystyle X } における任意の2点 { \displaystyle x,y } について

 { \displaystyle d(x,y) = \left\{ \begin{array}{ll} 1  \ (x\neq y) \\ 0  \ (otherwise) \end{array} \right. }

 , これも立派な距離になります.

 言葉で説明するなら「2点が離れていたら1, 同じなら0」ですね.

 

マンハッタン距離

 { \displaystyle n }次元実数空間 { \displaystyle X = \mathbb{R}^{n} } における任意の2点 { \displaystyle x = (x_{1},x_{2},...,x_{n}), y = (y_{1},y_{2},...,y_{n}) } について

 { \displaystyle d(x,y) = \sum^{n}_{i=1} |x_{i}-y_{i}| }

 , これは例えば碁盤目のような町の最短距離を与えます.

 名付け通りのマンハッタンとか京都市内をイメージすれば分かると思います.

 

チェビシェフ距離

 { \displaystyle n }次元実数空間 { \displaystyle X = \mathbb{R}^{n} } における任意の2点 { \displaystyle x = (x_{1},x_{2},...,x_{n}), y = (y_{1},y_{2},...,y_{n}) } について

 { \displaystyle d(x,y) = \max_{i} |x_{i}-y_{i}| }

 , これは例えばチェスや将棋, 囲碁での, 対象の2駒の距離を与えます.

 従って「チェス盤距離」とも呼ばれています.

 

  他にも色んな距離がありますが抽象的なものだったりするので割愛です.

  いづれにしろ, 一概に距離といっても色んな種類があることが分かります.

 

 

  「絶対値とは数直線上の0からの距離のこと」等々と理解するのはそれを助けるに十分ですが, 拘りすぎると今度は「距離を理解する」ときに妨げになる可能性があります.

 暗記に重きを置く方は尚更注意したいところです.