もう一人のY君

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分数と有理数の違い

last modified:2017.04.14

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  たまには数学ネタもサクッと書こうかな.

 

 学校で色々学んでると簡単に忘れてしまうこの違い.

 

 

分数とは

  簡単に言えば数と数の比を表現したものです.

 

 2つの数{ \displaystyle a, b }を用いて

 

 { \displaystyle \frac{a}{b} }  (但し { \displaystyle b \neq 0 } )

 

 と書くのが一般的ですが { \displaystyle a/b } と書くこともあります.

  ここでは「数」としか言っていないので, 整数である必要はありません, つまり { \displaystyle a, b } のいづれか一方, 若しくは両方が整数以外であってもかまいません.

 

 

有理数とは

  分母分子が共に整数である分数を有理数と言います.

  つまり有理数は分数の一部というわけですね.

 

 例えば { \displaystyle \frac{1}{2} } は分数かつ有理数です.

 { \displaystyle \frac{1}{\sqrt{2}} } は分数ですが有理数ではありません.

 

 

有理数を「分数で表せる数」とする人が非常に多い事実

 「分数 有理数」などで検索すればわかる通り, 分数と有理数があたかも同一であるかのように説明しているサイトやブログが検索上位ですら非常に多いです, これは中々恐ろしいことです.

 

 結果的に正しくても, 一部に「分数の形に表せるので有理数です」と, 「有理数=分数」と解釈されかねない表現をしています.

 読む方, 特に分数と有理数を学んだばかりの生徒ならば勘違いしてしまう可能性があります.

 

 これが高校生ならまだしも, 大学生であったり結構有名なサイトさんだったり, 超越数や稠密性を軽く扱ってのける方が表記してしまうのですから意外です.

 

 本エントリを執筆した一番の理由はこの「分数と有理数の違いを理解していない人が, 学術レベルに関係なく少なからず存在する事実」です.

 

 似たような事実, 例えば「絶対値=距離」にしてもそうなんですが, これも受験偏向や暗記至上主義等々の結果なんでしょうか…

 

 

一般には同一視して扱っている

  厳密に言えば違うには違うわけですが, 言葉としての扱いは結構曖昧だったりします.

 例えば「既約分数」は明らかに有理数での話ですが, より広義的な"分数"という名になっています.

 

  また断りがない限りは有理数を扱っているときに"それ"を分数と読んだり書いたりすることが良くあります.

 なのでそこに書いてある"分数"は"有理数"のことだったりします.

 

 

約分における { \displaystyle \frac{2\times\frac{1}{2}}{4\times\frac{1}{2}} } の扱い

  先日某質問サイトで(自分が)苦しめられたんですが, 分数(本当は有理数)の約分においてこのような扱いをすると「永遠に続いてしまうのではないか」という質問がありました.

 

  話の前に約分の本質から簡単におさらいしましょう, ある有理数 { \displaystyle \frac{a}{b} } について { \displaystyle a = a'q, b = b'q } を満たす整数 { \displaystyle q } が存在するとき,

 

 { \displaystyle \frac{a}{b} = \frac{a'}{b'} }

 

 となる性質を利用して, この { \displaystyle q } が { \displaystyle q }{ \displaystyle 0 } ならば, { \displaystyle a }{ \displaystyle a' }{ \displaystyle b }{ \displaystyle b' } となるようにできます.

 

 このような { \displaystyle a', b' } を求めることが約分の本質です. 

 整理すると約分というのは以下のことを想定しています.

 

{ \displaystyle \frac{a}{b} = \frac{a'q}{b'q} = \frac{a'}{b'} }

 

 { \displaystyle q }{ \displaystyle 0 } である限り, 多少"しょっぱくても"分母分子はどんどん小さくなり, 何度も繰り返せば有限回で必ず終了します.

 

 

整数は割り算に関して閉じていない

  代数学の言葉ですが, ある集合 { \displaystyle G } による直積 { \displaystyle G\times G } の上に定められた写像 { \displaystyle * } が存在するとき, { \displaystyle * } を { \displaystyle G } の二元演算と呼び, 組 { \displaystyle (G, *) } を亜群と言います.

  亜群は四則演算を含む代数系の一番原始的な存在で*1, 見ての通りで演算の結果は必ず自分自身 { \displaystyle G } の元であることが条件です.

 この亜群の条件を満たしている(演算の結果が必ず自分自身の元である)ことを, (演算{ \displaystyle * } に関して)閉じていると言います.

 

  整数は例えば { \displaystyle 1 \div 2 } の結果は整数ではありませんから, 割り算に関して閉じていません.

 故に「割り切れる」とか「倍数」「約数」という概念が生まれたわけですがそれは置いといて, この事情から分母分子が整数である有理数では, 見出しに書いたような { \displaystyle \frac{2\times\frac{1}{2}}{4\times\frac{1}{2}} } という式は不可能なわけです.

 (そもそもこれは「式」である…ということもありますが今回はそういう突っ込みはなしで…)

 

 

有理数は分数の一部であることを思い出す

  しかし先程も触れた通り, 有理数は分数の「一部」の世界なので, 一旦分数の世界で計算してみるわけです.

 

 結果的に「有理数」となり, 矛盾が無ければそれで良し…というわけです.

  分数なら { \displaystyle 2\times\frac{1}{2} } や { \displaystyle 4\times\frac{1}{2} } の結果は分数です.

 分数は割り算で閉じていますから上の2つの割り算

 

 { \displaystyle \frac{2\times\frac{1}{2}}{4\times\frac{1}{2}} }

 

 は分数なわけですね.

  加えてこの結果は有理数なわけです.

 

 

内部対称性

  このように一回り大きな「世界」から演算などをすることは数学ではよくあります.

 例えば有名な二次方程式の解の公式は, 組み合わせ次第では虚数解を得ます.

 つまり場合によっては実数解ではありません.

 

 しかし「虚数であることを想定して」, それも含めた世界から評価するわけです.

 

 虚数単位 { \displaystyle i } は方程式 { \displaystyle x^{2} + 1 = 0 } の解の一つとして定義されていますが, 「どちらにするか」は定めていません.

 

 つまり { \displaystyle \sqrt{-1} } でも { \displaystyle -\sqrt{-1} } でも本質は変わらないのです, 例えば { \displaystyle x = 1 + i } を解に持つ方程式は { \displaystyle x = 1 - i } も解ですね.

 このような性質は「内部対称性」と呼ばれています.

 自然数と整数, 整数と有理数, ひいては有理数と分数にも同じ環境が存在します.

 

 物理の世界で当たり前に複素数が出てくるのも, この内部対称性が働いているため, 矛盾しないと分かっているからです.

 

 { \displaystyle 1-2 } の結果は, 自然数の世界からすればあり得ないですが整数, それ以上の世界では何の違和感もありません.

 

 

 *1 : 扱いによっては「マグマ」という代数系がそれに当たります.