もう一人のY君

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【数学】確率のパラドックス

instinct probability

 当たり前のように思えるそれが, ある条件を満たすと覆ってしまうのは数学ではよくあります.

 

 

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直感的な「確率」

 一般に理解されている「確率」と言えば以下のような表現でしょう.

 

 

[定義:直感的確率]

 全事象 { \displaystyle \Omega } とその部分集合 { \displaystyle A }, 根源事象 { \displaystyle N } とし, { \displaystyle A } や { \displaystyle N } などが起こりうる数を { \displaystyle n(A), n(N) } などと書くことにすると, { \displaystyle A } が起こる確率 { \displaystyle P(A) }

 

{ \displaystyle P(A)=\frac{n(A)}{n(N)} }

 

 多少の表現の違いこそあれ, こういうイメージであろうと思います.

 

 

無限集合でも成り立つか

 では上のような定義は無限集合であっても通用するのでしょうか?

 

 試しに以下のように定義してみましょう.

 { \displaystyle A } は自然数 { \displaystyle \mathbb{N} } の部分集合とし, { \displaystyle \mathcal{A} }{ \displaystyle A } のクラス(分からなければ集合を要素とする集合でも良いです)以下を満たすようなものとします.

(厳密にはクラスは「集合を要素とする集合」ではありません)

 

{ \displaystyle \mathcal{P}(A):=\lim_{n\to\infty}\frac{^{\#}\{m\mid 1\leq m\leq n,\,m\in A\}}{n} } …(1)

( { \displaystyle  ^{\#}\{S\} } は集合 { \displaystyle S } の要素の個数のことです)

 

 { \displaystyle A_n=\{1,2,\dots ,n\} } とすると, 以下が成り立つことがわかります.

 

 任意の { \displaystyle n\in\mathbb{N} } について

  1. { \displaystyle A_n\in\mathcal{A} }
  2. { \displaystyle A_n\subseteq A_{n+1} }
  3. { \displaystyle \cup_{n\in\mathbb{N}}A_n = \mathbb{N} }

 

 

 さて,

 

{ \displaystyle ^{\#}\{m\mid 1\leq m\leq n \}=m }

 

であることから任意の自然数 { \displaystyle m } について

 

{ \displaystyle \mathcal{P}(A_m)=\lim_{n\to\infty}\frac{m}{n}=0 }

 

が言えます.

 

 一方 { \displaystyle \cup A_n=\mathbb{N} } でしたから,

 

{ \displaystyle \mathcal{P}(\mathbb{N})=1 }

 

であるはずです.

 

 このように, 演算の順序によって得られる値が変わってしまいます.

 

 

 アキレスと亀などをはじめ, 我々が日常的にイメージしたり直感的にこうであると思っていることは, 無限という概念が絡むと簡単に崩壊してしまうんですね.

 

 結果, 今回定義した「確率のようなもの」は(公理的)確率論における確率空間を満たしていないことになります.