
記録を録って6年になりました.
※価格は記事執筆時のものです. 現在の価格はApp Storeから確認ください.
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おさらい

我々が通常知りうる「バッテリーの状態」は設定アプリから確認できる画像の値です.
それ以外に様々な情報を記録する仕組みがあり、そこから多様なデータを参照できます.
各種データについて
バッテリー寿命を測るレシピを含め、各種データの詳細についてはこちらを参照ください.

この1年での一大事は、夏に起こった大幅な最大容量の減少でした.
たった一日で76%から50%というのは明らかに普通ではありません.
前後で起こったことは後述することにして、まずは全体を観察します.
結果
最大容量

まずは最大容量です.
昨年初夏までは平坦に推移していましたが、8月前半に一気に50%に下がってしまいました.
それまでと比べるととんでもない落差ですね.
昨年この話を記事にしましたが、後半で改めて解説します.
RawMaxCapacityとNominalChargeCapacity

メジャーな指標であるRawMaxCapacityとNominalChargeCapacityも見てみます.
動きの鈍いNominalが年を経るごとに若干減っていき、また冬季に一時的にRawが落ちる現象が確認できます.
冬季のRawの一時的な減りは劣化などを反映してか、毎年酷くなっていきます.
しかし2025年8月の急激な劣化で、その傾向が崩れています.
それでも10月以降は冬季に見られる谷のようなものが確認できます.
6年間でRawが一番小さかったのは2026/1/8でたったの96mAh、これは歴代AppleWatch38mmモデルの容量205mAhの半分以下です.
当然こんな状況だと充電を止めた時点で電源が落ちることも頻繁に起こります.
デフレーター

次にRawとNominalの比であるデフレーターを見てみます.
これまでは劣化に応じて全体に値が少しずつ大きくなり、冬季に一時的に大きくなるのを確認してきましたが、昨年夏の劣化の影響でそれらの変動が霞む値が続いています.
昨年までの5年間では200に届くかどうか…なんて思っていましたが、その後はむしろほとんどの日で200を超え、6年間で一番高かったのは先と同じ日の2026/1/8でおよそ942.71でした.

少しグラフの上下を拡大してみます.
先程はやや目立っていませんでしたが、最大容量が激減した昨年8月のタイミングで数日の間デフレーターが急激に前後しています.
Battery Health Metric

他の指標も見てみます、まずはBattey Health Metricから.
最大容量が「どれだけ電気を溜められるか」の総合値であるのに対し、Battery Health Metricは「安定して使い物になるか」の総合値で、以下の要素が反映されているようです.
- Qmax(実効最大容量)
- 内部抵抗(非線形成分を含む)
- 電圧降下特性
- 温度履歴(とくに高温)
- 放電レート
- セルのばらつきや測定信頼度
対して、設定アプリからも見れる最大容量は、以下の要素などが反映されているようです.
- Qmax
- 長期平均的な劣化
- 温度
- 経年劣化
より細かい違いをChatGPTに回答してもらった結果が下になります.
| 項目 | 最大容量(Maximum Capacity / Health %) | Battery Health Metric |
|---|---|---|
| 主目的 | ユーザー向けの分かりやすい劣化指標 | 内部制御・診断用の総合バッテリー健全度指標 |
| 設計思想 | 「新品比でどれくらい容量が残っているか」 | 「このバッテリーを安全・安定に使えるか」 |
| Qmax(最大電荷量) | 強く参照(主成分) | 参照(ただし単独では決まらない) |
| 内部抵抗 | 間接的にのみ影響 | 明確に影響(非線形性も含む) |
| 内部抵抗の非線形度 | 基本的に未考慮 | 考慮される可能性が高い |
| 充放電履歴 | 平滑化された形で反映 | より生データ寄りに反映 |
| 高負荷時の電圧降下 | ほぼ未反映 | 重要な評価要素 |
| 温度履歴 | 長期的影響のみ | 短期・長期の両方を考慮 |
| 経年劣化 | 容量低下として反映 | 容量以外の劣化も含めて反映 |
| 表示の安定性 | 比較的安定(急変しにくい) | 条件次第で急変しうる |
| 極端劣化時(例:50%付近) | 単純に低下 | 急激に大きな値を示すことがある |
| ユーザー可視性 | 設定画面で直接表示 | 解析データでのみ確認可能 |

実際、最大容量とBattery Health Metricの値を描画すると、おおよそ上下反転したような形になっています.
ただし見ての通り、後者はいくらでも大きくなる上、どうやら一定の劣化が進むと最大容量との相関関係すら失うようです.
最大容量が反映しない、一定の要素がBattery Health Metricに強く影響しているものと思われます.
この若干の違いが劣化の指標になるといいんですが、最大容量と違っていくらでも値が大きくなるのと、機種ごとのバッテリーセルが違うこともあり、Apple製品全体で目安値を区分するのは無理と判断しました.
| 世代 | 健全 | 軽度劣化 | 劣化進行 | 実用末期 / 要注意 |
|---|---|---|---|---|
| 〜iPhone8 / X 以前 | ~10 | 10~18 | 18~25 | 25~ |
| iPhone X / XS / 11 | ~12 | 12~20 | 20~30 | 30~ |
| iPhone12 / 13 | ~15 | 15~25 | 25~40 | 40~ |
| iPhone14 / 15 | ~20 | 20~35 | 35~55 | 55~ |
| iPhone16以降(暫定) | ~25 | 25~45 | 45~70 | 70~ |
一応ChatGPTでのやりとりで得た対応表は上になります.
このiPhone8の場合、新規購入時で7.82、最大容量50%になる直前が21.92なのでそれ相当の劣化が進んでいたことになります.
内部抵抗

次は内部抵抗です.
Battery Checkerでも紹介している通り,ChemicalWeightedRaは化学的な変化を考慮して加重測定した値で,WeightedRaは時間的な変動や使用状況に基づいて加重測定した値です.
目安は200~400mΩということで,劣化に伴いジワジと増えていきます.
今回の場合,劣化の少し前からこの範囲を超えていきました.
どう変化したかは後述します.
この内部抵抗が上がることで,以下の影響が起こり得ます.
- 電圧降下が大きくなる
V=IRの関係から分かるように,同じ電流でも抵抗が上がることで電圧が低下します.
SoCが最低動作電圧を下回りやすくなり,「まだ残量があるのに落ちる」と言ったことが起こることがあります. - パフォーマンス制御
iOSは内部抵抗や電圧降下率,温度上昇率を常に監視しており,内部抵抗が一定範囲を超え高負荷と判断すると,CPUやGPUのクロックを事前に落とします.
結果動作が重く,カクつきやすくなります. - 発熱が増える?
発熱はI^2×Rとなるので,内部抵抗が上がれば発熱する頻度,規模が大きくなります.
結果劣化に拍車をかける恐れがあります.
しかしこれはバッテリーがそこそこある場合の話です.
今回のように最大容量が50%といったかなり減った状態だと,iOSが電流制限をかけます.
また容量が少ないということは充電にかかる時間も消費する時間も少ないです,そのため全体の「発熱イベント」が減るため,結果的に「充電しっぱなしなのに意外と発熱しない」という現象を起こします.
内部抵抗は通常は見ることができない価ですが,劣化を見る指標としてとても重要です.

上のグラフだとメインである200~400mΩ帯の変化が分かりづらいので拡大しました.
冬季に上がって夏季に下がる傾向は6年目の初春以降鈍くなっています.
劣化で全体がジワジワ上がった影響でしょうか.
Sag Ratio

ここからは変わり種な指標を幾つか取り上げます.
まずはSag Ratio,劣化の妥当性の指標になります.
で得られます(これを含め、わかりやすく100分率にしている場合があります).
100なら標準的な劣化度合いで,100を切っていれば使用量の割に劣化が少なく,逆に大きければ高負荷や高温による劣化が疑われます.
Appleとしては,この値が100を切っている事が想定されていると言えます(公式に言ってる訳ではありません).
グラフの通り,このiPhone8は購入時はもちろん最大容量が50%に落ち内部抵抗が跳ね上がる状況の一方で,「劣化の仕方」は想定内というですね.
ただジワジワと増えているのでいずれ「想定外」になる未来が待っている訳です,もちろん今回は流石にその前に限界を迎えそうですが…

折角なのでSag Ratioを最大容量と一緒に見てみます.
双方の変化が一致して見える部分もありますが,一方だけの場合もかなり確認できます.
最大容量が激減する少し前にSag Ratioが下がっているとは言え,他のタイミングで同じ傾向にある訳ではなく,これを最大容量の変化の「きっかけ」とするのは難しいようですね.
抵抗差率

次は先程紹介した二つの内部抵抗の比である抵抗差率です.
で得られます.
実測抵抗のうち,どれくらいが化学劣化に影響しているか…の指標になります.
一定範囲に収まっているのは「劣化はしているが想定通り」であることを意味しています.
ちょくちょくと値がハネるのは温度上昇や放電終盤で電流が減少していることを意味します.
それぞれの内部抵抗値が上がっているにも関わらず抵抗差率が外れていないのは,劣化そのものはモデル通り,つまり指標こそ違えど先ほどのSag Ratioの値が想定内だったことと関わっています.
Sag Ratioは劣化の均一性,対して抵抗差率は劣化の可逆性の指標…とも言い替えられます.

少し見やすくすると,今回の場合はおおよそ82.5~83に収まっているのが分かります.
2022の夏季はデータを紛失したため横に延びています.
2025年8月の劣化後も同じ範囲に収まってはいますが,それまでと変化の幅に明確な違いが見られますね.
これも後でまとめて観察します.
劣化収束率

次は劣化収束率です.
で得られます.
バッテリーの健康状態が安定しているかどうかの指標になります.
80を切ると急激な劣化の恐れがあるのですが,今回はギリギリ止まっています,にも関わらず最大容量は急落してしまったんですよね…
明らかに何度かキャリブレーションがあったように見えるのに変化なし,それまではそれなりの相関関係に見えるのですが,最大容量が急落した原因は他にある…と見るべきでしょうね.
累積劣化率

次は累積劣化率です.
単純な定義は
ですが、最大容量とうまく比較するため上のグラフでは
と計算しています.
最大容量の減少や充放電に基づく累積的なバッテリー劣化の指標です.
50以上なら良好ですが20を切ると末期的な劣化と判断されます.
今回は50を推移しているのでこれらによる劣化は想定内と言えます.
上のグラフのように、いい感じに補正すると最大容量とそこそこの相関を見せますが、累積劣化率はサイクル数と使用年数のみで得られるのに対し、最大容量は電圧挙動や内部抵抗、化学劣化など複数の要素の総合値であるため、因果関係となると弱い関係にあります.
そのため累積劣化率は変化に対して原因を突き止めやすい一方で総合値としては弱く、最大容量は総合値として優秀な一方で原因の特定はできません.
累積劣化率は「ユーザーの生活習慣」であり「どれだけ酷使されたか」、最大容量は「バッテリー内部の症状」であり「どれだけ傷んだか」とも言えます.
そのため単独では一長一短ですが、一方に極端な変化があればある程度の原因特定が可能な場合があります.
例えば最大容量が減っていても累積劣化率に問題がなければ順当な劣化、あるいは最大容量が十分あっても累積劣化率が異常値であれば、くだんの定義からサイクル数が想定より多い、つまり想定よりも使いすぎ…であることが推測できます.
ちなみに最大容量が50%になった日を境にこの値がハネてむしろ上がっています.
これはRawが急減したことでいくら充電してもCyckeCountへの影響が著しく減ったからです.
実際最大容量が50%になってこの記事を執筆するまでの172日間にたった12しかサイクル数(=充放電回数)が増えていないのです.
使用する時間に大きな変化はないため、このようなことになったわけですね.
内部抵抗劣化感度

次は内部抵抗劣化感度です.
定義は複数ありますが、ここでは以下で計算しています.
容量より先に「老ける」兆候を数値化したものと言えます.
とはいえNominalが大きく変動することは少ないため、パッと見は内部抵抗の変動と大きく変わりません.
劣化前後
最後に、2025年8月に起こった、76%から50%という急激な劣化を起こした前後の様子を、7月以降から見てみます.

まずはRawとNominalからです.
それまでは大きな変動はありませんでしたが、8/4にRawが大きく下がります.
それは一日で戻ったのですがその数日後にNominalと合わせて大幅に下がり、その後Rawは大きく値を下げつつ激しく上下します.
このRaw→Nominal→最大容量…という変化の順序は正常な流れと言えます.
Rawは充放電や内部抵抗、温度、SOCなどに強く影響する、ノイズの多い短期的・瞬間的な実効容量と言えます.
Nominalはそれを元にフィルタリングし、条件選別し、更新ルールを満たした場合に値が変わる長期的評価です.
最大容量はこのNominalの変化を含めた要素を含めた条件を満たしたときに更新されます.
そのため「Rawの乱高下」→「Nominalの低下」→「最大容量の低下」という順になるわけです.
今回はRawの乱高下自体が大規模だったため、ここまで酷い下落となったと考えられます.

次は内部抵抗とデフレーターを、最大容量と一緒に見てみます.
変化を見たいのでデフレーターは反転させています.
Rawが異常を見せたタイミングとほぼ同じタイミングで、内部抵抗も正常範囲の400mΩを超え一気に上昇しています.
デフレーターの冬季の影響自体はみられますが、全体的に動いてしまっています、RawもさることながらNominalが大きく減ったのが致命的ですね.
先程のRaw→Nominal→最大容量という流れは、言い換えれば「結果」→「判断」→「表示」という関係にあります.
では結果をもたらした「原因」は…というと、そのひとつがこの内部抵抗の上昇です.
当然原因は様々あり、他には以下が挙げられます:
- 電圧サグ
- Qmax(実効容量)の低下
- 高負荷アプリやゲーム・動画・配信の利用
- 高温・低温(特に高温)
- 低SOC、高SOCでの使用
- モデル補正
そのため内部抵抗値が高いから最大容量が減る…とは限りません.

次は最大容量と抵抗差率です.
それまで一定範囲内を上下していたのが、最大値が激減した4日後に急落し、その後はほとんど上下せず推移する異常な状態となっています.
この一日だけ起こった急落は、データを見るにChemicalWeightedRaが先行して値が上昇したことと、グラフに描画する際の補正計算式によるものです.
上でも書いた通り内部抵抗は「原因」のひとつであるため、これがもたらす値は「表示」に当たる最大容量より前に現れるはずですが、この大きな変化は最大容量の表示変化より後に起こっています.
これは最大容量が即時変動するのに対し、ChemicalWeightedRaは履歴平均で数日遅れるからです.
これまで明白な違いなので最大容量が変化する指標になるかと期待したんですが、まだRawや各々の内部抵抗の推移を見た方が予測としての価値があるということですね.
この抵抗差率は、最大容量変動の予測ではなく、原因分類手段のひとつとして扱うのが良さそうです.

最後に最大容量とRaw、Nominal、抵抗差率、デフレーターを重ねてみます.
こうして見るとRawと、その影響を受けたデフレーターが最大値の変動を予測する良い指標となりそうですが、Rawは気温の影響を大きく受けるデメリットがあるんですよね…
〆
昨年の大幅な最大容量の減少は、バッテリーの劣化を検証し劣化を予測する手がかりを探るよい環境となりえたのですが、現実はそう簡単ではないようです.
使い方や当たりハズレでこういった状況にいつなるかはわかりません.
それでも、最大容量だけではわからない劣化の一端を垣間見れるという点で解析データの分析はある程度価値があると思っています.
来年のこの時期に7年板の記事が書けるのかわかりませんが、引き続きいつも通りに使って記録を取ることにします.

