もう一人のY君

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【数学】色んな「正則」

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 数学を学べば学ぶほど, 扱うあらゆるモノが厳密に定義されているように感じる場面がありますが, 意外とそうでもないことがあります.

 用語はその一つです.

 

 

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正則とは

 複数存在するこの言葉は, それぞれで意味は違えどそれによってある程度の制限を与え, 結果議論しやすくなります.

 これは正則以外の用語にも当てはまることです.

 

 

正則(環)

 単位的環, つまり乗法に関して { \displaystyle 0 } でない単位元 { \displaystyle e } を持つ環 { \displaystyle R } について, { \displaystyle R } の元 { \displaystyle a } に対して

 

{ \displaystyle aa' = a'a = e }

 

を満たすような元 { \displaystyle a' } が存在するとき, { \displaystyle a }正則(または可逆)であると言い, { \displaystyle a' }{ \displaystyle a } の可逆元と言う.

 

 群環体をご存知であれば, これは言ってみれば環 { \displaystyle R } は乗法可換であるということです.

 「可換」といった語は言ってみれば代数系に対して使う言葉であり, ここでの正則は元に対して使っているという違いがあります.

 

 環であれば良いので, 例えば合同式でもOKです, つまり

整数 { \displaystyle a }

 

{ \displaystyle aa'\equiv 1 \pmod m }

 

を満たすような整数 { \displaystyle a' } を持つとき, { \displaystyle a } は正則.

 

と言えます.

 これを満たす { \displaystyle a' } の必要十分条件が { \displaystyle \text{gcd}(a,m)=1 } であることは言うまでもありません.

 

 

正則関数(有理関数)

 { \displaystyle k } は無限体とし, 多項式環 { \displaystyle K=k[X_1,X_2,\dots ,X_n] } を用意します.

 有理関数 { \displaystyle \varphi=\frac{f}{g} } { \displaystyle \left(f,g\in K,\,g\neq 0\right) } が点 { \displaystyle P } で正則であるとは, { \displaystyle \varphi } のある分数表示 { \displaystyle \frac{f}{g} } に対して { \displaystyle g(P)\neq0 } であることを言う.

 

 なぜ「{ \displaystyle \varphi } のある分数表示」かは, 有理数がそうであるように例えば { \displaystyle \frac{X}{X-1} }{ \displaystyle \frac{X^2}{X(X-1)} } は分数式としては等しいですが, 後者については { \displaystyle X=0 } のとき値を持たないからです.

 空に値を持ったとしても { \displaystyle \frac{f}{g} } という分数を表現する方法は一意的でないため, これに対応する「類」がその対象となり, かつ「分母」が { \displaystyle 0 } を値としないものを正則と呼ぶわけです.

 

 これは定義域を指定する際にも重要であり, つまり { \displaystyle \varphi=\frac{f}{g} } の定義域 { \displaystyle \text{dom}(\varphi) } は以下のように表現できます.

 

{ \displaystyle \text{dom}(\varphi) := \bigcup_{\varphi = \frac{f}{g}} \{ P\in \mathbb{A}_k^n \,|\, g(P)\neq 0 \} }

 

 表現自体は特に違和感を持つことはないと思います.

 

 

正則関数(複素関数)

 複素関数 { \displaystyle f:\mathbb{C}\to\mathbb{C} } が, 定義域もしくはその部分集合の任意の点で微分可能であるとき, { \displaystyle f } を正則関数と言う.

 正則な複素関数はその定義域(の部分集合)の任意の点で何回でも微分できるメリットを持っています.

 

 

正則関数(複素関数)

 空間 { \displaystyle X } について以下の位相が定まっているとき, これを正則空間と言う.

 

  • 異なる2点のうち少なくとも一方が他方を含まない近傍を持つ

 

 過去にも触れたと思いますが, 点 { \displaystyle x } における近傍 { \displaystyle V\left(\subseteq X\right) } とは,

 

{ \displaystyle x\in U\subseteq V }

 

を満たす { \displaystyle X } の開集合 { \displaystyle U } が存在することを言います.

  よく言われる開集合と近傍の違いは, 後者は開集合である必要がないということでしょうか. 

 

 正則空間自体は位相空間の基礎で出てくる分離公理の一つですね, 毎度何がどれだったか忘れるんですが.

 

 

正則行列

 { \displaystyle n } 次正方行列 { \displaystyle A } について,

 

{ \displaystyle AA'=A'A=E }
{ \displaystyle \left(E\text{は単位行列}\right) }

 

を満たす行列 { \displaystyle A' } が存在するとき, { \displaystyle A } は正則(行列)と言う.

 

 

 なんとなくお察ししてもらえると思いますが, 正則の本質は逆元を持つとか, 分数で表すことができる, 微分可能であるという都合の良い特徴を持っているもの, 或いはそれをあつめたものであるとも解釈できます.

 

 逆に中身が違うのに同じ言葉にされると混乱しかねないのでできれば区別してほしいものですが.