もう一人のY君

主にiPhoneのショートカットアプリのレシピやTipsなどを書いています. たまに数学の記事も書きます.

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「任意」と「すべて」の違い, そして二つの「無限」

 こんにちは, @the_theorierです.

 

 今回は任意とすべての話です.

 

両者はどう違うか

 辞書で調べれば大抵はおよそ同じ意味であるとしていることが多く, また高校数学まででは特に詳しく紹介することなく, 何となく同じものであると見做しています.

 

 しかし実際にはこの2つは以下のように明確に異なります, 対象の集まりを適当にAとしましょう.

 

・任意(any)

 Aから好きに一つ選んだ対象を取り上げる

 

・すべて(all)

 Aの対象すべてを取り上げる

 

 前者については, 具体的にその「一つ」をどのように選ぶかはランダムという意味です, 命題の中で説明するなら「誰がどのような選び方をしてもその命題の真偽は等しい」ことになります.

 これの両者でどう意味が変わってくるでしょうか.

 

 

 例えば A={1, 2, 3} とでもしましょう, このとき

 

(1) Aの「任意の元」は0より大きい

(2) Aの「すべての元」は0より大きい

 

はどちらも正しいですね.

 では

 

(3) Aの「任意の元」と1の総和

(4) Aの「すべての元」と1の総和

 

はどうなるでしょう?

 

 まず(3)は, Aから好きに1つだけ元を選ぶのですから, 1, 2, 3のどれかになります, 誰がどう取るか…によって違いますから具体的にこの中のどれだ!…とは断言できません.

 なので代表して a としましょう, つまり a は1, 2, 3のいづれかです, これと1の総和ですから

 

a+1

 

ですね, つまり結果は2, 3, 4のいづれかとなります.

 

 次に(4)はどうなるでしょう?

 Aの元は1, 2, 3で, これと1の総和ですから,

 

1+2+3+1 = 7

 

, 結果は7となります.

 

 このように表現によっては任意とすべてが入れ替わるだけで結果がまるっきり異なりますね.

 

 

対象をどのように取り上げるか

 この2つがどう異なっているかと言うと, 「任意」の方はたくさんある中の一つを対象にしており, 従って「まだその先」が更に続いています.

 対して「すべて」は, 集まりに属する対象を余すことなく取り上げます.

 

 少し表現を変えてみます.

 

 2の平方根のうち正であるもの, つまり√2が無限小数であることは多くの方が知っている通りですね.

 このような無限小数は, 次の2つの解釈が出来ます.

 

(5) 小数以下の好きな場所を指定しても, まだその先にずっと続いている

(6) 無限に連なる数であるということを「知っている」

 

 前者はとても分かりやすいですね, 後者についても, √2を具体的に無限小数で書き表すことが無理であると分かってはいますが, しかし我々は「無限に数が並んでいることを知っている」のです.

 

 これを言いかえると(5)は「完結していない無限」, (6)は「完結した無限」とすることができます.

 

 数学の世界ではこの2つをそれぞれ「可能無限」, 「実無限」と呼びます.

 

 

二つの無限を用いたパラドックス

 この2つの無限を知っていたかどうかはさておき, これを使ったパラドックス(であろう)として有名なのがアキレスと亀でしょう.

 

 アキレスが進む毎に亀はその半分だけ進み, 更にアキレスが進むと亀はまたその半分…と繰り返すと, アキレスはいつまでも亀を追い越せないのでは…というヤツです.

 

 これは実際には簡単なことで, 「いつまでも追い越せない」のは, それは「追いつくまでの場所までの任意の地点から見た評価」であり, つまり可能無限の視点から追い越せない…としているわけです.

 

 しかしいつか追い抜くのは間違いないわけで…と考えるのは, 我々はその「追いついた場所」, 或いはその先までを知った上で評価している, 実無限からの視点になるわけです.

 

 

ε-N論法はまさに可能無限の考え方

 数学科の大学一年生を苦しめるカテゴリの代表格であるε-N論法はまさに可能無限に従った考え方です.

 

 数列での"それ"なら, 実際に書くと

 

∀ε>0, ∃N∈N s.t. ∀n∈N, n>N ⇒ |an -b|<ε

 

 であり, 簡約すると「任意の正実数εを選んでも, Nより先の任意の自然数nについて an と b の差が 高々 ε であるようにNを取ることができる」, もっと簡単に言うと

 

  • aNより先では aと b の差は ε よりも小さく出来る
  • εは任意に取れるのでいくらでも小さく出来る(ほとんど0)
  • 上の2つから, aNより先では an -と b の差はほとんど0, つまり aNと b はほとんど同じに出来る

というわけです.

 

  この考えでは常に「Nより先」と考えてるわけです, Nは任意に取ったεに従って決まるので, 常に「その先」が存在します, つまりこれは可能無限になるわけですね.

 

  高校数学まででやる極限は直感的な部分があるので, 各々の場合では理解しやすいですが, こちらはどうしても抽象的な表現なので躓いてしまう方が(自分も含めて)多いですね…

 

 自分の場合は概念が分かってもそれを実際に解く場合に生かすのに理解が回らず苦労しました…

 

 

 任意とすべて, そして可能無限と実無限, 何となく分かってくれたでしょうか?