もう一人のY君

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【数学】曖昧な記号や用語, 表記

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 数学というのは厳密なようでそうでもない所があったりします.

 

[Contents]
 

 

 

色んなあいまい性

 数学に触れる方であればいくつか知っているであろう曖昧な記号や用語は結構あります, 今回はその一部に触れたいと思います.

 

 

自然数

 高校数学以降, ある意味で影響に悩まされるものでもあります.

 一般的には

{ \displaystyle \left\{1, 2, 3, ...\right\} }

を意味しますが, 大学以降になると { \displaystyle 0 } を含むカテゴリも出てきます.

 これは自然数の公理に起因するものであり, 我々が陥りやすい「日常の常識と数学の同一視」によるものです.

 数学の黎明期こそ日常に傾倒したものであったとはいえ, 現代数学はその縛りに囚われる必要はありません.

 0が誕生した当時と今では, 数の体系の解釈は別物です.

 

 そして誤解を与えない表現として, 次の2つがあります.

 

正(の)整数 = { \displaystyle \left\{1, 2, 3, ...\right\} }

非負整数 = { \displaystyle \left\{0, 1, 2, 3, ...\right\} }

 

 正(の)整数についてはよく知られていると思います.

 0を含むかどうかをハッキリさせたい場合, この言葉を使用することが多いです.

 

 しかし基本は学生であればその時点で習ったものに従うべきです.

 一方高校数学までは, おおよそ数学を「易しくしたもの」ですので, それまでの解釈がそのまま数学のそれになるとは限りません.

 よくある他の例が「絶対値=距離」という勘違いです.

 

 

部分集合

 部分集合とは,

 2つの集合 { \displaystyle A, B } について,

{ \displaystyle \forall a\in A \Rightarrow a\in B }

が成り立つ時, 「{ \displaystyle A }{ \displaystyle B } の部分集合」と言う.

ですね.

 

 基本的にはこのとき { \displaystyle A\subset B } と書きますが, { \displaystyle A } と { \displaystyle B } 双方の関係を評価する上で別の用語・記号を用いることがあります.

 

 まず一つ目は「真部分集合」です, つまり

 集合 { \displaystyle A } が 集合 { \displaystyle B } の部分集合であり, かつ { \displaystyle A\neq B } であるとき, { \displaystyle A } は { \displaystyle B } の真部分集合である.

です.

 そして厄介なのは, 参考書次第ではこの真部分集合を以て

{ \displaystyle A\subset B }

としてしまうのです.

 この解釈の場合, 真部分集合と(通常の)部分集合を区別するために, 後者を

{ \displaystyle A\subseteq B }

と記号を変えます.

 

 逆に部分集合として { \displaystyle \subset } を使用する場合, 真部分集合は

{ \displaystyle A\subsetneq B }

と書き表します.

 この記号はしばしば「{ \displaystyle A = B } でないこと」を強調する際に使われることがあります.

 

 どの組み合わせで使用するかは参考書によりけりで, まとめると以下の3通りの流儀が考えられます.

 

  真部分集合部分集合
流儀1 { \displaystyle \subset } { \displaystyle \subseteq }
流儀2 { \displaystyle \subsetneq } { \displaystyle \subset }
流儀3 { \displaystyle \subsetneq } { \displaystyle \subseteq }

 なんともいらやしいですよね…

 一番誤解を与えない表現は流儀3ですが, そうなると大元の { \displaystyle \subset } を使う機会が無くてなんとも本末転倒ですし, かといってこれを採用すると, { \displaystyle \subset } を用いた状況でそれが部分集合を意味しているのか, 或いは真部分集合なのか, 状況次第ではそれを見極める必要が出てきます.

 

 

乗法記号の省略

 これはかなり前から話題になっていましたね.

 文科省ではこう指摘している, 多項式と解釈すればこうだ, この参考書ではこうだ, 或いは海外ではこうだ…と色んな見方から1派と9派(とその他)で分かれましたが, 基本的に数学ではそのように解釈によって結果が異なるような表現をすることを避けるべきです.

 したがって

{ \displaystyle 6\div2 (1+2) }

とするべきでなく,

{ \displaystyle 6\div2\times (1+2) }
{ \displaystyle (6\div 2)\times (1+2) }

のように, 演算順序を誰が見てもハッキリと断定できるように書くことが求められます.

 数学はエレガントであることが美徳ですが, 省略しすぎてわざわざあいまい性を生み出すのは本末転倒です.

 

 

補足:電卓による主張

 この問題で「○○の電卓ならこうなる」といった主張をたまに見かけますが, その電卓を構成するプログラムは人の手で作られたモノですので, 特定の(例外と言うべきでしょうか)演算ではどのような順序にするか…といった判定は好きなようにできます.

 従って電卓やGoogle検索での結果をもって主張するのは的外れです.

 

 

不等号

 一般に

 実数 { \displaystyle a, b } の差 { \displaystyle b-a } が正であるとき,

{ \displaystyle a\lt b }

と書き表す.

 特に { \displaystyle a\lt b } または { \displaystyle a=b } であるとき,

{ \displaystyle a\leq b }

と書き表す.

によって不等号を用います.

 この { \displaystyle \leq } も, 参考書などによっては { \displaystyle \leqq } を用いる場合がありますが, この2つは全く同じ意味です.

 実際に書くときは後者が多く, 参考書では前者が多いように見受けますね.

 ちなみに { \displaystyle \LaTeX } で書くと

  { \displaystyle \leq } { \displaystyle \leqq }
{ \displaystyle \LaTeX }コード \leq \leqq

ということで後者が一文字多いんですね.

 影響があるかどうか分かりませんが.

 

 また不等号でも, 部分集合の記号のように { \displaystyle \lneq } があります.

 当然この場合例えば { \displaystyle a\lneq b } は, 強いて書くならですが

{ \displaystyle a\leq b } かつ { \displaystyle a\neq b }

と言えます.

 これもやはり { \displaystyle a\neq b } であることを強調するために用います.

 

 

二項係数

 あいまい…という程ではありませんが, 二項係数としての表記は基本的に

{ \displaystyle \binom{m}{k}\qquad_{m}\mathrm{C}_{k} }

の2種類が存在します.

 通常は前者を使うものですが, 特にそうしないといけないという決まりもありませんし, 実際に書くことを考えると後者の方が多いでしょう(上下のスペースを空ければ前者の方が読みやすいと思いますけどね).

 

 

ニアリーイコール

 これもあいまい性というわけではありませんが, 我々が一般的に用いるのは例えば

{ \displaystyle a\fallingdotseq b }

ですが, 国際的には

{ \displaystyle a\approx b }

を使うのが一般的で, 国内の参考書でもたまにこちらを見かけますね.

 因みに { \displaystyle \risingdotseq } も同じ意味です.

 念の為これを数学っぽく定義するならば,

 

 実数 { \displaystyle a, b } について, 十分小さな正実数 { \displaystyle \epsilon } が存在して

{ \displaystyle |a-b|\lt\epsilon }

を満たすとき, { \displaystyle a\fallingdotseq b } と書き表す.

でしょうね.

 { \displaystyle \epsilon } がいくつなのか…については, 対象によって評価するものです.

 

 

符号と演算記号

 実質同じと解釈出来てしまうため気にしなくても良い範囲ですが, 例えば 

{ \displaystyle +1 } の { \displaystyle + }
{ \displaystyle 1+1 }{ \displaystyle + }

は別物です.

 前者は実数の正負を示す符号であり, 後者は二項演算です.

 { \displaystyle - } についても同様です.

 

 

あいまい性が残る原因

 様々ありますが, そもそも現在のようにどこに居ても他者と素早くコミュニケーションが取れる時代と違い, 昔は狭い世界で研究などが行われてきました.

 当然ある人が発見しても, 実はもっと前に別の人が発見していたかもしれません, しかしそれを知る術は当時は容易ではありませんでした.

 結果独自の解釈や記号が作られ, それがある程度の範囲で常用された結果が現在なわけです.

 例えば割り算の記号について我々は { \displaystyle \div } を当たり前に使っていますが, 一部地域では { \displaystyle / } を用いています.

 インドで0が発明されたというのも有名な話ですが, 0や負数などの解釈は国や地域で様々でした.

 

 ある程度統一されたものの, すべてがそうというわけではないわけです.

 そうしようとしても, 各々が一定数以上常用されてしまったため, 簡単に変える事はできないからです.

 数学はよく「言語」に例えられます, 記号や用語を軽々に変えることは, ある意味では母国語の一部をちょくちょく変えてしまうようなものです.

 故に, 中身こそ厳密性を求められるものの, 外面は中々そう簡単にはいかないようです.

 

 

 因みに, 記号そのものの「呼び名」などに拘る方が結構いらっしゃいますが, 数学において記号単体では意味を持たないケースが良くあります, 不等号などその最たる例ですね.

 「大なり」「小なり」といった呼び方をするそうですが, 主観ですがそれ自体に重要性は無いと思われます.

 現に呼び名が無くとも通ったわけですから.