今回はゼロと零についてです.
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ゼロ
ゼロは言うまでもなく, (例えば)整数の に相当します.
歴史的に「何も無い」「無」を連想してしまいますが, 現代数学においてそのような意味はありません.
Wikipeadiaですら初っ端から「無を表現する数の概念」と書いてしまっていますが, では「無」を閲覧してみましょう.
無とは、否定を一般化した表現。対義語は有。
だそうですす.
「否定を一般化」とは, 数学で言うなれば真偽値でしょうか.
理屈からすればその代数系には否定を意味する と肯定を意味する からなる集合の代数系と言えます, つまり です.
しかしご存知の通り数というのは自然数ですら( の是非は置いといて)他にも といくらでもあります.
「否定を一般化」としての無, は強ち間違ってはいませんが, それは飽くまでも真偽に関わる(或いはそれに同値な)代数での話であり, 上記で分かる通り と無, 或いは否定が同一であることを意味するものではありません.
もっと易しく言えば「そういう使い方もあるけどイコールではない」ということです.
故 高木貞治氏が著書「数の概念」で主張したように, 今取り上げた数そのものはその時点では順序数でも加法単位元でも無でもなく, ただ整数という数の集まりから取ってきた一つの数に過ぎません.
各々に順序が, 或いは単位元であるか…ということが分かるのは整数の下で然るべき順序が, 演算が定義されてから言えるものであり, それまでは各々はただそこにあるのみで, 順序も, 演算も, 部分集合が開なのか閉なのかすらも断定のしようがありません.
代数学の視点で見れば演算が変われば加法単位元も必ずしも「」とは限らず, またそれに相当する「言語」に対応するよう, 記号 に対して各々零, 一, 二, ...或いはzero, one, two,...と呼んでいるに過ぎません.
零
ゼロと同じような扱いをしてしまいがちですが, こちらはもうちょっと「緩い」存在です.
辞典で調べても分かる通り「小さい」「取るに足らない」と言った意味を持ちます.
また厄介なことに現代では零を「ぜろ」とも「れい」とも呼んでしまうため, 状況次第ではどちらにすべきか迷ってしまうこともあります.
それはさておき, 「零」であるべき零をいくつか紹介します.
零元
代数学における「零元」とは加法単位元, つまり集合 とその上に定められた加法 について,
を満たす の元(ただ一つであることが求められます)として定義されています.
ごく一般の加法では( を含む集合に限り)零元が であることはご存知でしょうが, 代数系によっては 以外もあり得ますし, そもそも代数系において は必ずしも数の集まりとは限りません.
従って代数系では加法単位元 と軽々に断定せず, 例えば のように表記することがあります.
零集合
言葉では知らずとも, 義務教育を受けた人なら知らぬうちにこの集合(細かく突っ込むと「集合とは限らない」けれども)を扱っています.
つまり(大ざっぱに言うと), 写像 において
を満たす集合 を, の零集合と言います.
これはカテゴリによって
- 解集合
- カーネル
などと各々で写像でなくとも関数であったり集合でなくベクトルであったりと言葉や記号こそ違えど, 本質は同じです.
解集合とは即ち「方程式の解を集めた集合」です, 従ってある意味一番「知っている」と言えます.
つまるところ「移して零元になる対象」というのは多くの分野での関心事ということです.
そしてこの集合は(存在するならば)必ずしも空・無とは限りません.
〆
あまり深く考えない場合は同一視されることが多いですが, 若干の解釈の違いが少しでも理解していただければ幸いです.