今回はルベーグ測度を使った, 1点(集合)の「長さ」の厳密な証明です.
準備がとても多いです.
全部網羅するとかなり長くなってしまうので一部は省略します.
測度空間
先日紹介した測度空間までの定義が前提となります.
各種定義, 補題など
目的の証明を行うためにたくさんの, そして面倒な定義, 補題などを必要とします.
π-系とd-系
まずπ-系, そしてd-系と呼ばれる族と, それに関わる定理を紹介します.
全体のことを考えると重要なd-系ですが, 今回は長文ゆえ省略する箇所で登場してくるため, 以下の定理1までに留めます.
[定義:π-系]
集合 と, 上の部分集合系 について, が共通集合を有限個取る操作に関して閉じている, つまり
であるとき, を -系と呼ぶ.
イデアルに近い概念ですね.
[定義:d-系]
集合 , また を の部分集合の族とする.
は以下を満たすとき, 上の -系と呼ぶ.
- かつ ならば,
- かつ ならば
ここで, とは に対して かつ であることを言う.
σ-加法族の印象も見えますが性質はこの時点では同一ではありません.
実際には以下の定理が成り立ちます.
[定理1]
次の2つの命題は互いに同値である.
集合 の部分集合の族 について,
- は -系かつ -系である
- は -加法族である
[定理1の証明]
(1.⇒2.)
まず加法族であることを示し, 次にσ-加法族であることを示せば良い.
仮定より は -系かつ -系である, ここで とおく.
-系の定義より, まず は明らかである.
また , であることから -系の定義2より である.
加えて -系の定義より である, 従って
, 以上で は 上の加法族である.
次に とすれば であって, かつ である.
よって -系の定義3より であることが分かる.
従って
となって が -加法族であることが分かる.
ボレルσ-加法族とπ-系
先日紹介したボレルσ-加法族は, 一般的にその全体像を評価するには余りにも要素が多すぎます.
因みにボレルσ-加法族は一般的に がよく使われ, しばしば と略記されます(以降, この記事では とは のことを指すことにします.).
対してπ-系は比較的イメージがしやすいですね.
このボレル集合 とπ-系について, 以下が成り立つことが知られています.
[補題2]
次の集合系
について,
.
[補題2の証明]
任意の について
であり, 右辺は可算個の開集合の共通集合であるから, は の要素であることが分かる.
双方 -加法族であるから, あとは の任意の開集合が の要素であることを示せば良い.
しかし の任意の開集合はその位相空間の定義より可算個の開集合の和で表せるので, つまるところ次の開集合について調べるだけで十分である.
任意の実数 に対して,
であることと, が正実数 について
となることから である.
カラテオドリの拡張定理
測度論を学ぶ上で最初にやってくる基本定理かつ難関です.
然るべき証明を書くつもりだったんですがこの時点で4600文字程度なので今回は諦めます.
[定理:カラテオドリの拡張定理]
を集合, を 上の加法族とし, 更に とする.
を可算加法的な写像
とすると, 上の測度 で, かつ の上で となるものが存在する.
また, ここで とするとこのような はただ一つである.
ルベーグ測度
やっと本題のルベーグ測度に入ります.
とし, の部分集合 が であることを, ここでは が
という形であることとします.
当然 です.
この が 上の加法族であることは容易に分かると思います.
そして
であるため, これを とします.
上記の に対して非負集合関数 を
と定めれば, は加法的であり, 更に可算加法的です(要証明).
従ってカラテオドリの拡張定理より の上の に一意的に拡張されます.
もちろん で定義したいならば, をルベーグ測度で と定義しれば良いわけです.
その妥当性は本筋でも確認できることでしょう.
この をルベーグ測度と呼び, 改めて と書き表します.
ややこしい準備を重ねてきましたが, 実際に定義する方法は日常のそれとなんら変わらないことがわかります.
単調収束定理
続いて本題を導く肝となる, 測度の単調収束定理です.
[定理:測度の単調収束定理]
を測度空間とする.
の部分集合列 と集合 について を以下のように定める.
このとき以下が成り立つ
- ある に対して であるとき,
(測度の単調収束定理の証明)
(1.の証明)
とおくと は互いに素な集合列となるので, 測度の可算加法性より
(…可算加法性)
(2. の証明)
に対して と置き, 前述を適用すれば良い.
1点の長さ
やっと本題に入ります.
測度空間として を考えます.
上の一点 を任意にとり, を正の実数列で を満たすものとします.
このとき
が成り立つことは容易く分かることでしょう.
これより を得ます.
しかし でしたから, 測度の単調収束定理より となり, 結局 であることがわかります.