もう一人のY君

iPhoneアプリのレビューやアップデートレビューなどを書いています. たまに数学の記事も書きます.

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【iPhone,iPad】充電完了までの時間を計算するレシピは目安になるのか【ショートカット】

 オートメーションを利用し、充電したら充電完了になるまでの時間を計算・表示するレシピというものが紹介されていたので実際に調べました.

 

 

ショートカット

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  • Apple
  • 仕事効率化
  • 無料

※価格は記事執筆時のものです. 現在の価格はApp Storeから確認ください.

 レビュー時のiOSバージョン : iOS15.5

 

 

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紹介されたレシピ

isuta.jp

 くだんのレシピはisuta.jpというサイトで紹介され、グノシーにも転載されています.

 レシピ自体の作成者はまた別人のようです.

 

 使い方自体はどちらにも書かれているのでここでは省略します.

 

 実際に中身を見ると、実行時のバッテリー残量xに対してそこから充電した場合の残り時間を

 

 \displaystyle \frac{(100-x)110}{60}

 

と計算しています.

 if文があるのは残り時間に応じて時間表記を最適化しているからですね.

 

 見ての通り、残り時間を計算する式は線形、つまりシンプルな1次関数です.

 

 個人的に気になったのは、「こんな簡単な計算式で充電完了までの時間が計算できるのか?」でした.

 

 可能性としては、1Aの充電アダプタでの満充電にかかる時間が3~4時間であることから線形式にして計算している説です.

 というのもこのレシピを公開しているShortcutGalleyというサイトにこの式に関する言及がないためです.

 レシピ内にも記述がないため、結局この数式の妥当性が不明なわけです.

 

 

 実際レシピを試してみると、計算どおりになりませんでした.

 画像の場合充電を始めたのが10:13でバッテリーは92%、15分後に100%になる…という計算ですが、15分をとうに超えた10:34になってもバッテリーは98%なのがわかります.

 

 

実験

 ではそもそも充電する際のペースはどうなのかを簡単に調べることにしました.

 いくつかの条件で計測します.

 計測ではショートカットを使い、1秒待機するごとに前回とのバッテリー残量を比較して変化したら時刻を取得します.

 実際には1秒間隔ではありませんけどね.

 

 

 結果がこちらのグラフです. 20%から次の+1%にかかる時間を連続で記録したものです.

 使用したのはiPhone8,iOS15.5です.

 計測用に作ったレシピを実行した後はスリープにしていますが、メールをはじめ通知が来る状態にしています.

 

 電源タップからの充電(青、緑)は完了までの時間が速くパッと見てほぼ線形(直線)に見えますが、80%後半あたりから充電時間が長くなり、99%→100%ではかなりの時間を要します(今回の場合約49分).

 

 PCからlightning経由で充電した場合(赤)は完了までの時間が電源タップと比べ2倍以上の時間を要しましたが99%→100%を除いてほぼ線形で推移しました.

 

 いずれもレシピ内の線形式(オレンジ)より充電時間が遅いのがわかります.

 

 電源タップ1に比べ2が遅いのは充電器をはじめlightningケーブルが古いのと、タコ足配線なのが原因かもしれません.

 

 

 じゃあ充電器が同じなら大丈夫か…というとこれまたそんな都合の良いことはありません.

 画像は同じ充電器で次の1%までにかかる時間を何度か計測した結果です(充電開始のタイミングは異なります).

 安定したホッケースティック状になるかと思いきや充電開始後数%は異常に時間がかかることがあったり、また80%以降はその都度ハネて非常に曖昧です.

 

 

 こちらはバッテリー容量が極端に少ないiPhone6,iOS12.5.6、バッテリー容量51%での充電時間を実測したものです.

 51%ということで新品のおよそ半分しかない状態では利用できる時間も短ければ充電にかかる時間も20%前後からでは30分もかからないという状態です.

 

 レシピで使用している計算式であれば20%の時点で約1時間50分と出るわけですが、あまりにかけ離れているのがわかります.

 

 

充電を遅らせる要因

 程度の差こそあれ、充電の速度に影響を与える要素、そしてくだんの数式では正しく計算できないであろう推論は複数あります.

 

 

端末ごとの違い

 今回は主にiPhone8,iOS15.5で実験しましたが、機種によってバッテリー容量は異なります.

 しかし充電の速度は各々の充電器で(基本的には)一定ないし同じペースで行いますから、相対的な充電速度は異なります.

 つまり同じ充電環境でも、異なる端末では充電にかかる時間が違います.

 

 同じ理屈で、同一の端末でも劣化にともなって充電時間が変わってきます.

 バッテリーの最大容量そのものが減るので、充電時間が早まることになります.

 それは上のiPhone6での例でよくわかりますよね.

 

 

充電器の違い

 先程「1Aでの充電アダプタでの満充電にかかる時間が3~4時間」と書いたように、仕使用する充電器が違うことで満充電にかかる時間が変わってきます.

 2.1Aのアダプタなら1.5時間程度みたいですね.

 

 また本来充電に使われる電力が劣化や一時的な発熱で奪われることもあります.

 その分だけ充電が遅れるので時間がかかります.

 

 

充電モード

 iPhoneでは0%~80%では急速充電、80%以降はトリクル充電を行っています.

 80%を皮切りに充電速度が変わるため、線形式で充電完了までの時間を計算するには無理があります.

 設定によっては「バッテリー充電の最適化」のオンオフも違うでしょう.

 ピークパフォーマンスかどうかでも異なります.

 

 

利用状況

 充電中なにもしない…とは限りません.

 SNSをしたりゲームをしたり、何もせずとも不意に通知がやってきたりします.

 これらは少なからずバッテリーを消費するため、全体のバッテリー残量が増えるのを抑制します.

 よりバッテリーを消費する作業をすれば線形性はどんどん失われていきます.

 

 

季節の影響

blog.thetheorier.com

 こちらの「デフレーター」のグラフからわかるように、冬期は寒さによる減衰が起こります.

 端末の種類や劣化、一時的な変化で前後しますがおおよそ3%前後みかけの最大容量が減ってしまいます.

 くだんの記録は愛知県でのもの、更に寒い場所ではその影響は顕著でしょう、実際愛知県ですら日によってはデフレーターが110を超える日も普通にありますから場所によっては1割を超える日が頻繁に起こることもあるでしょう.

 計算上の充電時間が1.5時間であると見積もってもその1割は9分の違い、他の要因も加えれば軽く10分以上のズレが生じるわけです.

 

 これはEV、電気自動車でも起こる致命的な課題のひとつですね.

 

 グラフの通りこの減衰は影響は暖かくなるにつれ解消していきますが、劣化であると誤解させる要因のひとつとなり得ます.

 

 

 

 99%までは概ね線形であろうことは推測できるわけですが、特に充電器をはじめとする環境の違いで大いに異なることがわかりました.

 

 仮に計算するにしても、その環境で1%変化するまでの時間を測定し、それを使って計算するのがまだ無難だと思います.

 それでも一定の差が生じるため、正確な数字を出すのは難しいでしょう.

 

 また99%→100%はかなり時間がかかります.

 電源タップの場合で約49.16分、PCの場合で約48.35分と一時間とは言いませんがかなり長いです.

 100%にこだわる必要が無ければこの時間は無視した方が良さそうですね.

 

 数分~十数分程度の差なら目安で済まされますが場合によって30分を超えるのはもはや使い物になりません.

 

 精度を高めるにはどれだけ減ったか、充電でどれだけ増えたかを実際に測り、その結果で推測するしかありません.

 

 一部のインフルエンサーといわゆるインプゾンビの方々がこういったデメリットに触れず拡散したため誤解が広まっています.

 内容次第では5chでのやり取りの方が遥かに建設的だったりします、悲しいですね.