もう一人のY君

iPhoneアプリのレビューやアップデートレビューなどを書いています. たまに数学の記事も書きます.

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【数学】a≡b (mod m)ならなぜa,bをmで割った余りが等しいのか

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 高校から合同式を学ぶようになってそこそこ経ちましたが, まだまだ定着するには時間がかかりそうです(そもそも何故入れたんでしょうね).

まるで堂々巡りのようなタイトルですがこんな質問があったので実際に確認してみましょう.

 

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定義

 合同式の定義は習熟度の立場から少なくとも2通りの定義があります.

 

[定義:合同式1]

 整数 { \displaystyle a,b } を整数 { \displaystyle m } で割った余りが等しいとき,

 

{ \displaystyle a\equiv b\pmod m }

 

と書き, { \displaystyle a }{ \displaystyle b } は (法 { \displaystyle m } に対して)合同であると言います.

 ここで堂々と「余りが等しい」と言ってしまっていますがスルーします(目的はこの「逆」が何故成り立つか…という話ですし).

 これは「余り」の概念から立ち入った定義と言えます, このとき整数 { \displaystyle k, k', r (0\leq r \lt b) } を用いて

 

{ \displaystyle a=mk+r }
{ \displaystyle b=mk'+r }

 

と表せますね.

 辺々引くと

 

{ \displaystyle a-b=m(k-k') }

 

となり, これは「{ \displaystyle a-b }{ \displaystyle m } の倍数」を意味します.

 この等式に余り { \displaystyle r } は登場しません(依存しない, と言います)から, いちいち余りについて考えることなく合同式を定義できることになります, それが合同式の二つ目の定義です.

 

 

[定義:合同式2]

 整数 { \displaystyle a,b } の差 { \displaystyle a-b } が整数 { \displaystyle m(\gt 0) } の倍数であることき,

 

{ \displaystyle a\equiv b\pmod m }

 

と書き, { \displaystyle a }{ \displaystyle b } は (法 { \displaystyle m } に対して)合同であると言います.

 

 これが初等整数論における合同式の定義です.

 実際にはイデアルという概念を用いた更に拡張された定義がありますが割愛します.

 

 

本題

 では本題に入りましょう, つまり以下を証明します.

 

 

 { \displaystyle a\equiv b\pmod m } ならば { \displaystyle a,b } をそれぞれ { \displaystyle m } で割った余りは等しい.

 

 

[証明]

 仮定より, ある整数 { \displaystyle k } を用いて

 

{ \displaystyle a-b=mk } …(1)

 

が成り立ちます.

 除法の定理より, 整数 { \displaystyle q,r(0\leq r\lt m) } の組が(ただ一通り)存在して

 

{ \displaystyle a=mq+r }

 

を満たします.

 つまり「{ \displaystyle a }{ \displaystyle m } で割った余りが { \displaystyle r }」となります.

 

 これを(1)に代入して

 

{ \displaystyle (mq+r)-b=mk }
{ \displaystyle \Leftrightarrow mq+r-b=mk }
{ \displaystyle \Leftrightarrow b=m(q-k)+r }

 

, つまりこのとき { \displaystyle b }{ \displaystyle m } で割った余りが { \displaystyle r } となります.

 

 よって { \displaystyle a,b } 双方を { \displaystyle m } で割った余りが共に { \displaystyle r } で等しくなります. { \displaystyle \square }

 

 

 先ほどの「拡張」でやったことを逆に辿れば良いわけですね.

 

テキスト・メモ・画像・リンクをメモできる数学・科学ノート「LabPlace Math」

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 気に入った, 気になるテキストや画像などをクリップしておける, 主に数学・科学向けのノートアプリです.

 

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  • 教育
  • 無料

※価格は記事執筆時のものです. 現在の価格はApp Storeから確認ください.

 レビュー時のバージョン : v1.01

 

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テキストや画像・リンクを溜め込んで整理

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 アプリを起動すると予め追加されたノートが開いた状態となっています.

 画面左上の "<Notes" をタップするとノート一覧に移動します.

 

 

ノートの追加

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 新規でノートを追加するにはノート一覧から画面右上のアイコンをタップします.

 "notice 0" とタイトルの付いたノートが作成されるのでタップします.

 

 

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 "notics 0" に相当する部分はノートのタイトルとなります.

 タップしてタイトルを変更しておきましょう.

 

 

コンテンツの追加

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 ノートにコンテンツを追加するために画面右上にある "Edit" の一つ右のアイコンをタップします.

 追加できる形式は

 

  • new text:テキスト
  • new image:画像
  • new formula:数式
  • new link:ハイパーリンク

 

の4種類です.

 

 

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 "text" はシンプルにテキストを書き込めます.

 コンテンツ右にあるアイコンは上記4種の属性を表します.

 

 またコンテンツが複数となった場合, 画面右上の "Edit" をタップすることでコンテンツごとに並び替えができるようになります.

 

 

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 "formula" では専用のキーボードを用いて数式を書くことができます.

 画面右上の "Done" で確定し, 表示された数式の下にコメントを書くことも可能となっています.

 

 

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 "link" ではWebページの簡易リンクページを追加できるのですが, どうやら対象はウィキペディアに限定されているようです.

 URL枠が画面上に小さく表示されていますが(画像赤矢印), ウィキペディア以外のURLを入れてみたりキーワードを入れてみてもタイムアウトするだけでした.

 

 

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 なお追加する場合はウィキペディア内の検索窓から表示したいページを開き, 画面右上の "Done" をタップすることで完了です.

 

 

PDFとしてエクスポート

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 LabPlaceでは作成したノートをPDFに起こすことができます.

 初回のみ右画像のような確認画面が出てきます.

 簡易翻訳すると以下になります.

 

PDFの生成は外部サーバー上で行われます.

PDF作成にあたり, このノートのすべてのデータは安全な接続を介してサーバーに送られます.

該当データはPDF作成のためにのみサーバーに保管され, PDF生成後に削除されます.

同意しない場合, PDFは作成できません.

 

 問題ないと判断したら "Accept" をタップします.

 

 

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 これでPDFが作成されます.

 リンクだけ表示がおかしくなってしまうようですね.

 あとは画面右上のシェアアイコンをタップして保存したり他のアプリへ投げます.

 

 

 単純なメモとしても, 重要な箇所などのみを抜粋して整理した専用ノートなどを作ることもできます.

 

 URLスキームは今のところ確認できませんでした.

 

 

URLスキームについてはこちら

[Search]iPhone URLスキーム -The theoryの戯言

iPhoneのURLスキームを検索して一覧表示できます. リクエストは内容に応じてお答えします.

 

 

(a^n)/dの形の合同式を計算できるアプリ「Mod Cycler」

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 { \displaystyle x\equiv \frac{a^n}{d}\pmod m } となる { \displaystyle x } を求めることができます.

 

Mod Cycler

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  • Jordan Holmer
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※価格は記事執筆時のものです. 現在の価格はApp Storeから確認ください.

 レビュー時のバージョン : v1.0

 

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(a^n)/d 型の合同式を計算

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 アプリはシンプルに

 

  • Base:底
  • Expornent:指数
  • Disitor:除数
  • Mod:法

 

となっています, 上の式で置き換えるなら

 

{ \displaystyle x\equiv \frac{\text{Base}^{\text{Expornent}}}{\text{Divisor}}\pmod {\text{Mod}} }

 

という関係になっています.

 

 

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 各々を入力したら右下にある "Cycle" をタップすると画面下に結果が表示されます.

 解答自身は "Reset" 直下に, そして底による指数 { \displaystyle 1 } から { \displaystyle \text{Expornent}-1 } までの結果も表示してくれます.

 

 

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 ただ問題の除数ですがどう見ても結果に反映されていないです.

 画像の通り { \displaystyle \frac{14}{3} } を整数に均してくれていませんし, 各指数の結果には全く反映されていません(そもそも合同式なのに { \displaystyle 4.66666\dots } と書いてしまう時点で…).

 なので "Divisor" は特に弄らず { \displaystyle 1 } のまま固定で良さそうです.

 

blog.thetheorier.com

 因みに先日紹介した通り, きちんとした手順を踏めば { \displaystyle x\equiv \frac{a}{b}\pmod m } なる { \displaystyle x } はちゃんと存在します.

 

 

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 因みに "Mod" が大きくなると各指数表示の項目も増えるため上下にスワイプして表示することになります.

 

 

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 そこそこの桁数でもそれなりの速さで結果を表示してくれますが, 5桁くらいから時間がかかるようになります.

 6桁後半では待っても待っても表示されませんした.

 

 

 なお画像ではいずれも法に素数を使っていますが合成数でも問題ありません.

 URLスキームは今のところ確認できませんでした.

 

 

URLスキームについてはこちら

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iPhoneのURLスキームを検索して一覧表示できます. リクエストは内容に応じてお答えします.

 

 

【数学】等しいということ

math equal

 先日は「等しい」と「同じ」の違いに触れましたね.

 今回は等しいという意味について考えます.

 なお, 「等式」の意味での「等しい」になります.

 

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等しいとは

 より根本のそれは数同士の等式関係でしょう, つまり二つの数 { \displaystyle a,b } が等しいということを我々は一般的に

 

{ \displaystyle a=b }

 

と書きます.

 

 

等式の性質

 等式については例えば以下のような性質をイメージすることでしょう.

 

  • { \displaystyle a=a }
  • { \displaystyle a=b\Rightarrow b=a }
  • { \displaystyle a=b\Rightarrow a±c=b±c }
  • { \displaystyle a=b\Rightarrow ac=bc }

 

 小学校までであれば互いの数が, あるいは計算結果が等しければ { \displaystyle = } で結べばOKでした.

 中学になり関数や図形, 証明に触れ, 「等しい」ということがただ数同士に用いるものとは限らないことを知るようになります.

 

 対象によって「等しい」にも色々あることを否応にも理解せざるを得なくなります.

 

 

集合

 集合と次に挙げる関数は現代数学に必須のアイテムですね.

 集合で言う「等しい」は数のそれとは意味が異なります, つまり二つの集合 { \displaystyle A,B } について, 互いに一方の元が他方の元であることを言います.

 言いかえれば次の二つが成り立つことを言います.

 

  • { \displaystyle \forall x\in A \Rightarrow x\in B }
  • { \displaystyle \forall x\in B \Rightarrow x\in A }

 

 次のように言いかえても良いですね.

 

{ \displaystyle A \subset B } かつ { \displaystyle A \supset B }

 

 

多項式・関数

 多項式 { \displaystyle f(X), g(X) } が等しいとは, 各々を降べきの順に並べたとき, 各々の係数がすべて一致することであり, このとき { \displaystyle f(X)=g(X) }, 誤解がなければ { \displaystyle f=g } と簡略します.

 ご存じの通り多項式(整式でも良いですが)の時点では関数ではないので「値」の話は多項式関数として扱ってからの話です.

 

 そして関数 { \displaystyle f(x), g(x) } が等しいとは, 双方の定義域が等しく, かつ定義域の任意の元 { \displaystyle a } について { \displaystyle f(a)=g(a) } であることを言います.

 このとき { \displaystyle f(x)=g(x) } と書き表し, 多項式と同じように誤解がなければ { \displaystyle f=g } と略記します.

 

 

図形

 二つの図形 { \displaystyle A,B } が等しい...はやや事情が異なります, というのも全く形も大きさも位置も等しい...となると余りにもトリビアルだからです.

 従って

 

  • 拡大・縮小
  • 回転
  • 鏡面(反転)

などによって等しくなるとき, 等しいと見なします.

 しかしここでは一般的に「合同」や「相似」の語が多用され, 誤解がなければ「等しい」を使用します.

 

 あるいは面積によって等しいと定めることもできるでしょう.

 この場合互いの形が別でも構いませんね.

 形や大きさとはまた異なる都合の良さがあります.

 

 逆に言えば同じ対象の等式関係でも, その条件によって全く異なることがあり得ると言うことです.

 

 

同値関係

 対象によっては必ずしも等式関係に縛られることはありません.

 図形の合同はその一つです.

 数に至っても例えば有理数は一つの数を表すのに無限個の表記があります, 即ち任意の有理数 { \displaystyle \frac{a}{b} }{ \displaystyle 0 } でない任意の整数 { \displaystyle k } について

 

{ \displaystyle \frac{a}{b}=\frac{ak}{bk} }

 

が成り立ちます.

 

 これらは表記こそ違えど, ある「ルール」のもとでは共通します. その答えがこの同値関係です.

 

[定義:同値関係]

 集合 { \displaystyle S } について, ある条件 { \displaystyle \sim } が以下を満たすとき, { \displaystyle \sim }{ \displaystyle S } 上の同値関係と言う.

 

 { \displaystyle S } の任意の元 { \displaystyle a,b,c } について,

 

  • (1){ \displaystyle a\sim a }
  • (2){ \displaystyle a\sim b \to b\sim a }
  • (3){ \displaystyle a\sim b, b\sim c \to a\sim c }

 

 ある { \displaystyle a } と同値であるものを集めた類

 

{ \displaystyle \left[a\right] = \left\{ x | x\sim a \right\} }

 

を要素とする集合である商集合

 

{ \displaystyle S\backslash\sim = \left\{ \left[x\right] | x\in S \right\} }

 

が「都合の良い商集合」となります.

 

 我々は同値関係など知ることなく, 分数や有理数において同値関係を用いています.

 

 同値関係における { \displaystyle S } は数を対象とする集まりに限らず, 関数や図形などに置き換えることも可能です, 即ち図形の合同もまた同値関係です.

 

 有名な { \displaystyle 0.999\dots =1 } も, 双方を等しいと見なせば簡単に都合がつきます.

 実のところ極限を使うのは余り勧められません, 工夫すれば「そうならない」ケースを作れる場合があるからです.

 

 

 このように, 対象によって, 下手をすれば同じ対象であっても等式の意味が異なります.

 基本の基本であるはずの等式ですら奥深いものですね.

 

合同式でなぜマイナスが使えるのか

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 合同式では当たり前に例えば { \displaystyle -1\equiv 2 \pmod 3} と言った表現をします.

 慣れていないうちはそもそもマイナスを使って良いこと自体分からないという方がおられるようです.

 

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「余り」に拘りすぎた結果

 それまで「余り」に執着し, かつその対象は正整数であり, 負数である場合は殆ど取り上げませんでした.

 結果, 以下のような定義を見て却って違和感を覚える方が多いようです.

 

 整数 { \displaystyle a,b } の差 { \displaystyle a-b } が正整数 { \displaystyle m } の倍数であるとき,

 

{ \displaystyle a\equiv b \pmod m }

 

と表し, { \displaystyle a,b } は法 { \displaystyle m } について合同であると言う.

 

 加えて言えば「倍数」についても正整数ばかり扱って来ましたから { \displaystyle a,b } の少なくとも一方が負数である場合は勿論, { \displaystyle a\lt b } となる { \displaystyle a,b } の場合もやはり「これまでと違う」と混乱する要因となり得ます.

 

 

無知の知

 他のカテゴリにも言える事ですが, 数学の中には余りに拡張されていて小中高の各々のタイミングで教えることが適わない場合があり得ます.

 例えば三平方の定理に触れたばかりでまだ三角関数を学んでいない学生に, その拡張にあたる余弦定理を教えても意味が無いのです.

 

 しかし学生によっては, その時点で「それがすべてである」と勘違いしてしまう恐れがあります.

 それは本人の思い込みであったり, 教師の教え方であったりと様々です.

 

 負数や { \displaystyle 0 } の倍数は考えない話も同じです.

 

 しかし現実は違い, その拡張が存在しえるるわけですね.

 それを知っているかどうかは, それ自身を詳しく知っているかはさておき本人の理解・解釈に少なからず影響を与えます.

 「無知の知」とはよく言ったものですね.

 これは小学校のテストでかけ算を逆にしたためバツを貰った件も根っこは同じです(この件はそれがすべてではありませんが).

 

 

「余り」からの合同式

 いづれにしろ, 合同式は余りの概念から拡張されたものと見ても全く問題はありません.

 問題なのは拡張したんですから矛盾しない限りで対象となる数もまた拡張されるべきであり, 今回はむしろそれが重要であるということです.

 

 従ってここからは「自然数」でなく「整数」として { \displaystyle a,b } を取ります.

 

 さて整数 { \displaystyle a,m (m\leq 0) } について

 

{ \displaystyle a=mq+b }

 

を満たす整数の組 { \displaystyle (q,b) } がただ一つ存在することは比較的易く分かります.

 そしてこれによって「 { \displaystyle a }{ \displaystyle m } で割った余りが { \displaystyle b }」であることが同値となります(もっと言えば { \displaystyle 0\lt b\leq m } ですね).

 

 「余り」の頃はここまででしたが, 合同式はその(余りの視点における)本質として

 

「余りが同じである整数を同じと見なす」

 

という考え方となります, 即ち

 

「整数 { \displaystyle a,b } 双方を正整数 { \displaystyle m } で割った余りが等しいとき, { \displaystyle a,b } は『合同である』」

 

と解釈します.

 

 前述の通り整数 { \displaystyle a,b } は対応する整数 { \displaystyle q,q',r,r' } を用いて

 

{ \displaystyle a=mq+r }

{ \displaystyle b=mq'+r' }

 

を満たします.

 

 もし { \displaystyle a,b } が上の意味で「等しい」, つまり合同ならば, 双方の余りが等しい事になります, 即ち

 

{ \displaystyle a=mq+r }

{ \displaystyle b=mq'+r }

 

です.

 

 辺々引くと

 

{ \displaystyle a-b=m(q-q') }

 

, これは「 { \displaystyle a-b }{ \displaystyle m } の倍数」であることを意味しています.

 

 こうして合同式の定義が「双方の余りが等しい」ことから導かれました.

 

 { \displaystyle a-b } は仮に { \displaystyle a,b } が自然数であると制限したとしても, 結果が負数になる可能性があることを考えるとそもそも自然数と縛ること自体が不毛であることもすぐにわかります.

 

 そしてこの関係に余りは登場しません, 問題なのは双方の数そのものと, 何の倍数であるか…つまり合同式における「法」の3つとなります.

 

 

 小中高大と進学することを考えれば自ずと見えて来るとは思いますが, 今学んだことがその概念の完結と決め付けない事です.

 実際はまだまだその先があるものです.

 

 現に今回の合同式もイデアルという概念を用いた「その先」が存在します.

 

【数学】関数と書くからには定義域をハッキリさせよう

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 数学において関数はなくてはならない存在ですね.

 

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関数のおさらい

 そもそも関数とは何だったでしょうか?

 

blog.thetheorier.com

 先日紹介した通りですが, 改めて書き直しましょう.

 

[定義:関数]

 集合 { \displaystyle A, B }について, { \displaystyle f }{ \displaystyle A } から { \displaystyle B } への関数であるとは, 以下の条件を満たすことを言います.

 

  1. { \displaystyle f } の任意の元は順序対 { \displaystyle \langle a,b\rangle } である, 但しここで { \displaystyle a\in A, b\in B } である
  2. { \displaystyle \langle a,b_1\rangle\in f, \langle a,b_2\rangle\in f \Rightarrow b_1=b_2 }
  3. { \displaystyle A } の任意の元 { \displaystyle a } に対して, { \displaystyle \langle a,b\rangle\in f} となるような { \displaystyle B } の元 { \displaystyle b } が存在する

 

 このとき, { \displaystyle f:A\to B } と表します.

 また 2, 3より { \displaystyle \langle a,b\rangle\in f } となるような { \displaystyle b } はただ一つなので, この { \displaystyle b } のことを { \displaystyle f(a) } と書き表します, つまり

 

{ \displaystyle \langle a,b\rangle\in f \Leftrightarrow b=f(a) }

 

が成り立ちます.

 わざわざ順序対を使う必要がないのはこのためですね.

 

 

数式だけでは意味が無い?

 関数の定義の通り, 数式 { \displaystyle f } だけでは関数とは言えません.

 

 妥協して値域に相当する { \displaystyle B } は良いとしても, 定義域に相当する { \displaystyle A } (またはその部分集合)の指定が無ければ関数ではありません.

 

 強いて言うなら数式 { \displaystyle f } に対して関数は { \displaystyle \left(f,A,B\right) } とするべきでしょう( { \displaystyle \left(f,A\right) } でも十分ですが).

 

 例えば { \displaystyle f(x)=x^2 } を関数のつもりで振る舞っても, 自分は { \displaystyle \left( 0,1\right) } のつもりが, 定義域に触れなければ相手は { \displaystyle \mathbb{R} } と思うかもしれません.

 もしかしたら数列 { \displaystyle f:\mathbb{N}\to \mathbb{R} } のつもりかもしれません.

 

 相手によって解釈が変わってしまうような表記は数学ではマナー違反です.

 { \displaystyle 6\div 2(1+2) } も同様ですね.

 

 或いは例えば我々は多項式の不定元に当たり前に値を代入しますが, それはそれが「その多項式が定める多項式関数である」と暗黙の内に認めているからです.

 多項式関数とは例えば一次関数や二次関数なとがその一例です, 従ってこの立場でもはやり何らかの形で定義域を明確にする必要があります.

 

 

 普段なら露骨に拘ることはないでしょうが, いざという時にこの違いは重要になってきます.

 

【数学】分数に付くマイナス

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 タイトルは分数としましたが簡単に有理数とします.

 

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分母や分子に付く?付かない?

 質問サイトでもあたまに見かける話題です, つまり

 

{ \displaystyle -\frac{a}{b}\,\frac{-a}{b}\,\frac{a}{-b} }

 

は等しいのかどうか…です.

 

 後者の二つについては比較的易しいでしょう, 有理数 { \displaystyle \frac{p}{q},\,\frac{r}{s} } について

 

{ \displaystyle ps=qr }

 

が成り立つこと, 先日も紹介したマイナス×マイナス

 

{ \displaystyle (-a)(-b)=ab }

 

により成り立ちます.

 

blog.thetheorier.com

 

 よって示すのは例えば { \displaystyle -\frac{a}{b}=\frac{-a}{b} } のみで十分です.

 

 { \displaystyle -\frac{a}{b} } というのは { \displaystyle \frac{a}{b} } の加法逆元に他なりません, 有理数の自然な加法・乗法の定義は

 

{ \displaystyle \frac{a}{b}+\frac{c}{d} := \frac{ad+bc}{bd} }
{ \displaystyle \frac{a}{b}\times\frac{c}{d} := \frac{ac}{bd} }

 

であり, 加法単位元は { \displaystyle \frac{0}{1} } ですね.

 

 従って任意の { \displaystyle \frac{a}{b} } における加法逆元 { \displaystyle \frac{m}{n} }

 

{ \displaystyle \frac{a}{b}+\frac{m}{n} = \frac{m}{n}+\frac{a}{b} = \frac{0}{1} }

 

を満たします.

 

 この { \displaystyle \frac{m}{n} } は(存在するならば)上の意味で { \displaystyle -\frac{a}{b} } を表すわけです.

 

 さて上を整理すると

 

{ \displaystyle \frac{an+bm}{bn}=\frac{0}{1} }

 

となります.

 

 例えば { \displaystyle m=-a, n=b } とすれば左辺は { \displaystyle \frac{ab+b(-a)}{b^2} } となり, 整理して { \displaystyle \frac{0}{b^2} } , これは

 

{ \displaystyle 0×1=b^2\times 0 \\ \Leftrightarrow 0=0 }

 

により { \displaystyle \frac{0}{1} } に等しいです.

 

 然るに { \displaystyle \frac{m}{n}=-\frac{a}{b}}{ \displaystyle \frac{-a}{b}} に等しいことが分かりました.

 

 よって推移律より

 

{ \displaystyle -\frac{a}{b}=\frac{-a}{b}=\frac{a}{-b} }

 

が成り立ちます.

 

 

 数式としては別モノですが, 各々は紛れもなく等しいです.

 どの表記が正しいとか間違っているとかではなく, 「どれが都合が良い」というだけでしかありません.

 

【数学】38は奇数?偶数?

38 even odd

 年明け前のTwitterからが始まりでしょうか, ちょっとした話題が一部で見られました.

 

 

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38が奇数?

 きっかけはこちらのツイートなんでしょうかね?

 結果は残念ながら真逆となっています.

 

 話題となったツイートは自称京大生のやりとりとなっています.

 

togetter.com

 京大生と主張するツイッターユーザーの勘違い(うっかり?)によって騒動がちょっと大きくなります.

 ネタということにしてその場を切り抜けようとする場面もあるのでこの記事もどう捉えるかは皆さんにおまかせします.

 敢えて「ネタにマジレス」ということです.

 

 さてネタとかそういうことはさておき, 倍数は次のように定義されています.

 

[定義:倍数, 偶数, 奇数]

 整数 { \displaystyle a,b\,(b\neq 0) } について,

 

{ \displaystyle a=bq\quad\quad \dots(1) }

 

を満たす整数 { \displaystyle q } が存在するとき, { \displaystyle a } は { \displaystyle b } の倍数であると言う.

 

 特に { \displaystyle b=2 } であるとき, { \displaystyle a } は偶数, 偶数でない整数を奇数と言う.

 

 また上記は

 

  • { \displaystyle a }{ \displaystyle b } で割り切れる
  • { \displaystyle a } が { \displaystyle b } を割り切る
  • { \displaystyle b } が { \displaystyle a } の約数

 

の定義でもある.

 

 { \displaystyle 38 }

 

{ \displaystyle 38 = 2\times 19 }

 

とできますから { \displaystyle 2 } の倍数ということになります.

 

 ネタでグロタンディーク素数や創作定理を持ち出すネタツイートも散見されますが, ただ定義に従って確認するだけの話です.

 

 

「割り切れる」という定義

 偶数のWikiにもあるように, 偶数などの倍数を「割り切れる」で定義するケースがありますが, 上の通りなのでこれを定義とすると自らを定義としてしまって矛盾してしまいます.

 

 なので「◯が△の倍数ということは, △が◯で割り切れることを言うんだよ」といった物言いは個人的にはかなり気になるところです.

 

 また倍数や約数というのは, 2つの整数の商 { \displaystyle \frac{a}{b} } が必ずしも整数でない, 言い換えれば「整数は割り算で閉じていない」から生まれた語であり, 概念です.

 従って倍数や約数の話で割り算を持ち込むには注意が必要となります.

 

 

 こういう類に学歴を持ち出すのはなんとも情けないですね.

 勉強が出来ても他がダメな方もおられるわけです, 学校の成績であったりどこの大学出身か…だなんて時としてなんの指標にもなりません.

 真に求められるべきは他にあります.

 

 また「当たり前」を考えることも必ずしも無意味とは限りません.

 このご時世, 問題は解けても概念は説明できない…なんてことはザラですからね.

 どこまでできれば良いとか悪い…というのはありません, 人によって年齢も理解度も違いますから.

 

【数学】使用する記号は決まっているのか?【記号一覧】

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 数学では色んな目的で, アルファベットをはじめとする数字以外の様々な記号が用いられています.

 

 

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慣例

 例えば変数は { \displaystyle x } , 関数は { \displaystyle f(x) } …とするのが殆どです.

 これは絶対にそうしなければいけない…というわけではなく,

 

「予めある程度の決まりを断ることで, 後で他の人が見てもその記号の意味を直ぐに理解できる」

 

といった目的であり, それ故慣例としてその使い方を優先しています.

 

 従って例えばテストや試験などでは原則として慣例に従うべきで, そうでない, 例えば自分だけで簡潔する場合はそんな決まりは関係ないので好きにして問題ない事になります.

 

 「自分はこれを使いたい」というのは勝手ですが, それを相手に見せる場合は慣例ではないその使い方を予め断っておくかその場で説明するか, いづれにしろ「それがどういう目的で使われているか」を説明する必要があります.

 

 これは数学に求められるコンピテンシーの一つである「相手に理解してもらう力」にも関わります.

 

 例えばある人が実変数を { \displaystyle z } と置いたとします.

 他の人がそれと知らずに見れば複素数と勘違いするかもしれません.

 それを避ける為に慣例が存在します.

 

 しかし慣例はそこまで強制力を持つものではなく, 同じモノであっても参考書が違えば記号が異なる可能性があります.

 これは各々に従う他ありません.

 

 

慣例一覧

 慣例というのは実際には曖昧なものも含まれており, 国や地域で異なる場合があります.

 それでもある程度共通であろうものの一部を書き留めておきます.

 

 記号に添え字が付き得る場合も含みます.

 

 

A

記号 意味 備考
{ \displaystyle a }  定数   
{ \displaystyle A }  集合   
{ \displaystyle \mathbb{A^k_n} }  アフィン空間   

 

 

B

記号 意味 備考
{ \displaystyle b }  定数  2つ目 
{ \displaystyle B }  集合  2つ目 
{ \displaystyle \mathcal{B} }  ボレル集合   

 

 

C

記号 意味 備考
{ \displaystyle c }  定数  3つ目 
{ \displaystyle C }  集合  3つ目 
{ \displaystyle \mathbb{C} }  複素数   
{ \displaystyle \mathcal{C} }  クラス(類)   

 

 

D

記号 意味 備考
{ \displaystyle d }  定数  4つ目 
{ \displaystyle d }  約数   
{ \displaystyle d }  位数   
{ \displaystyle D }  判別式   

 

 

E

記号 意味 備考
{ \displaystyle e }  ネイピア数   
{ \displaystyle E }  平均(期待値)   

 

 

F

記号 意味 備考
{ \displaystyle f }  関数, 写像   
{ \displaystyle F }  集合  閉集合, 加法族の要素 
{ \displaystyle F }  体   
{ \displaystyle f_X }  確率密度関数   
{ \displaystyle F_X }  分布関数   

 

 

G

記号 意味 備考
{ \displaystyle g }  関数, 写像  2つ目 
{ \displaystyle G }  集合  代数系の空間, 閉集合, 加法族の要素 
{ \displaystyle G }  群   

 

 

I

記号 意味 備考
{ \displaystyle I_A }  定義関数   
{ \displaystyle i }  定数(離散パラメータ)   
{ \displaystyle i }  複素単位   

 

 

J

記号 意味 備考
{ \displaystyle j }  定数(離散パラメータ)  2つ目 

 

 

K

記号 意味 備考
{ \displaystyle k }  定数(離散パラメータ)  3つ目 
{ \displaystyle K }  体  主に多項式環の係数など 

 

 

L

記号 意味 備考
{ \displaystyle l }  直線   
{ \displaystyle L^p }  位相空間(Lp空間)   

 

 

M

記号 意味 備考
{ \displaystyle m }  変数・定数  主に整数 
{ \displaystyle m }  直線  2つ目 

 

 

N

記号 意味 備考
{ \displaystyle n }  変数・定数  主に自然数や整数 
{ \displaystyle n }  定数(離散パラメータ)  主に自然数, 非負整数 
{ \displaystyle \mathbb{N} }  自然数   

 

 

O

記号 意味 備考
{ \displaystyle O }  ランダウの記号   
{ \displaystyle o }  位数(代数学)  参考書によっては { \displaystyle ord } 

 

 

P

記号 意味 備考
{ \displaystyle P }  命題   
{ \displaystyle \mathbb{P} }  無理数   
{ \displaystyle P }  確率   
{ \displaystyle p }  素数   

 

 

Q

記号 意味 備考
{ \displaystyle Q }  命題  2つ目 
{ \displaystyle \mathbb{Q} }  有理数   
{ \displaystyle q }  素数  2つ目 

 

 

R

記号 意味 備考
{ \displaystyle r }  定数・変数  主に円の半径 
{ \displaystyle \mathbb{R} }  実数   
{ \displaystyle R }  環   

 

 

S

記号 意味 備考
{ \displaystyle S }  集合, 空間   

 

 

T

記号 意味 備考
{ \displaystyle t }  定数  主に時間パラメータ 
{ \displaystyle T }  停止時間   

 

 

U

記号 意味 備考
{ \displaystyle U }  (部分)集合   

 

 

V

記号 意味 備考
{ \displaystyle V }  集合(開集合)   
{ \displaystyle V }  分散   

 

 

W

記号 意味 備考
{ \displaystyle w }  複素数   
{ \displaystyle w }  要素(確率論)   

 

 

X

記号 意味 備考
{ \displaystyle X }  空間・集合   
{ \displaystyle X }  不定元   
{ \displaystyle x }  変数   

 

 

Y

記号 意味 備考
{ \displaystyle Y }  集合   
{ \displaystyle Y }  不定元   
{ \displaystyle y }  変数   

 

 

Z

記号 意味 備考
{ \displaystyle Z }  集合   
{ \displaystyle /mathbb{Z} }  整数   
{ \displaystyle z }  変数   

 

 

 これら以外にも使い方はありますし, 中には必ずこういう使い方をしないといけないという決まりもありません.

 

【数学】割合(%)を考える上でありがちな誤り

171201_00

 以前にも, 温度に関する誤りが話題になりましたね.

 今回も同じく「尺度」がキーワードとなります.

 

 

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 以前, こんな内容を見かけました(数字は変更しています).

 

「1から2に増えたとき,何%増えたことになりますか?」

 

 皆さんはどう考えるでしょう?少し余白を取ります.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何%変化したのかはどうやって測れるのか

blog.thetheorier.com

 以前紹介した「尺度」に従えば, 割合, つまり%は比尺度に相当します.

 従って加減の他に乗除を考えることが可能であり,かつ絶対的な基準となる値が定まっているものを言います.

 

 今回取り上げた { \displaystyle 1 }{ \displaystyle 2 } だけでは, 基準が明確でないため, その違いの度合いを測ることはできません.

 差を取れば { \displaystyle 2-1=1 } ですが, これは { \displaystyle 1 } という大きさで見れば自分自身と等しいですが, これが { \displaystyle 100 } となるとその差は { \displaystyle \frac{1}{100} } でしかありません. 乗除に関しても同様です.

 

 従って何らかの基準が無ければどれだけ増えたか…何%増えたのか…なんてことは分からないのです.

 

 …と言うわけで与えられた条件ではどうしようもないので仮定するしかありません.

 例えば { \displaystyle 100\% } に相当する値を { \displaystyle x } , { \displaystyle 1 } に相当する割合を { \displaystyle a\left(\%\right) }, 同様に { \displaystyle 2 }{ \displaystyle b\left(\%\right) } としましょう, すると以下が成り立ちます.

 

{ \displaystyle \begin{align} \left\{ \begin{array}{ll} x:1=100:a \\ x:2=100:b \end{array} \right. \end{align} }

 

 整理します.

 

{ \displaystyle \Rightarrow \begin{align} \left\{ \begin{array}{ll} ax=100 \\ bx=200 \end{array} \right. \end{align} }

{ \displaystyle \Rightarrow (b-a)x=100 }

{ \displaystyle \Rightarrow b-a=\frac{100}{x} }

 

 この { \displaystyle b-a } が求める値ですので, { \displaystyle x } が分かれば良いことになります.

 式から, { \displaystyle x } はゼロではありえないこともわかりますね.

 

 例えば { \displaystyle x=1 } なら { \displaystyle b-a = \frac{100}{1}=100 } であり, つまり { \displaystyle 1 }{ \displaystyle 100\% } とした比尺度ですから { \displaystyle 1 } から { \displaystyle 2 } へ増えたことは「{ \displaystyle 100\% } の増加」なので正しいです.

 

 或いは { \displaystyle x=100 } とすれば { \displaystyle b-a=\frac{100}{100}=1 } であり, この場合 { \displaystyle 1 } から { \displaystyle 2 } へ増えたことは「{ \displaystyle 1\% } の増加」となります.

 

 

 たった1ワード欠けただけで正しい解釈が出来なくなることは今回に限らず往々にしてあることです.

 気をつけたいものですね.

 

【数学】数学は役に立つのか

mathematics is useful

 良くも悪くも永遠のテーマの一つですね.

 なのでこれを読んでもらって解決する保障はありません.

 

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数学は将来役に立つのか

 こんな質問に立ち会ったとき, しばしばその返答に「論理的思考を養う」が取り上げられます.

 しかし我々は学校で学んだ算数や数学によってそれを養ったのでしょうか?

 論理的思考を養うのに良いと言う反面, それが結果的に本当なのか, 目に見えて, 何らかの結果を伴って「具体的に」こうこうであると答える方を見聞きしたことは(僕は)殆どありません.

(そもそも人の行く先は様々ですからそんな理想的な答えがやってくるなんてありえませんけどね)

 

 とは言え社会人となって「あの時勉強しておけば良かった」と後悔する方がいるのは, それはそれで事実です.

 そう思う方の多寡はさておき.

 

 

説明する力

 初等時はただひたすら計算問題を解くばかりですが, 中学高校と進学するにつれ, 証明問題のような計算以外のものが登場します.

 

 これらは自信が納得すれば済む訳ではなく, 「相手が理解してくれるかどうか」が影響します.

 

 数学に「計算能力」が重要なのは言うまでもありませんが, 進学するにつれ求められる能力はそれに留まらず, 記号や用語を使いこなす力や相手に説明する能力など複数存在します.

 そしてこれらすべてが, 形は違えど数学に限らず将来役に立つ力となるのです.

 

 勉強ができても, それを正しく相手に伝える事が出来なければ意味がありません.

 これまでの受験偏向教育はこの力を育てる事に目を向けませんでした.

 

 21世紀になり, このように学問を学ぶ上で求められる能力を整理し, それを「キー・コンピテンシー」などと呼んでいるようですが, 日本で真っ当に採用するのは何時のことでしょうね…

 

 この考えはさして難しくはありません.

 言うなれば少し意味は違いますが「ディベート」のようなものであり, ただ無為に解いて終わるのではなく, 問題の解答を発表したり議論したりするのです.

 アメリカや欧州では実際に行っているそうですね.

 

 現在日テレで放送中の「先に生まれただけの僕」で櫻井翔が扮する商社転向の校長が提案していましたので知っている方もおられるでしょう(同時に教育方針を転換する難しさも知ったことでしょう).

 

 これは数学の, 教育の起源である「リベラル・アーツ」に他ならず, つまり当時の

 

  • 論理
  • 文法
  • 修辞(しゅうじ, 表現力などの意味です)
  • 音楽
  • 算術
  • 幾何

 

の7部門の一部を指します.

 

 数学はそれ自体が言語に喩えられますが, 喩えでなくとも「説得力」を要するために結局は国語力も必須と言えます.

 進学すればするほど, それが如何に重要であるか, そしてそれが如何に難しいかを体験する事でしょう(「受験数学」であるうちはそれを感じることが難しいです).

 

 でもよく考えると, いざ社会に出てからもその理屈は似ています.

 

 「それ」をまず自分が理解し, そして相手に理解できるよう説明する…

 自分が分かってても相手に伝わらなければコミュニケーションにすらなりませんよね.

 

 質問サイトでも散見されますが, 自身が理解していてもその質問文では回答者側が理解できない, あるいは読み手によって解釈が異なる表現であるケースがあります.

 

 これらが「国語力」によって簡単に解決する一つの要素になります. もちろん質問した内容自体を本人が理解しているかどうかも気になるところです.

 

 

なぜ勉強するのか

 これまでは余りに受験偏向で, (既に廃止されましたが)それにゆとり教育が絡み, 一体何のために数学教育を行っているのかが問われる状況でした.

 高校へ進学するため, 〇〇大学へ合格するため, 多くの学生は, 数学に限らず進学のため, 大卒という「ラベル」を目的に勉強しているのです.

 あくまでも「進学」に対する目標であり, その先のそれではありません.

 「数学って将来役に立つの?」という疑問が生まれるのはある意味では必然でしょう.

 

 進学した後は兎も角, 大学を卒業した後はどうするのか.

 これまでの積み重ね は一体その後何に生かされるのか.

 手段と目的が逆転していないか.

 何のために進学するのか.

 「皆が行くから」?

 

 

数学はなぜつまらないのか

 「相手に伝える」能力は学生だけでなく教師にも求められる能力です.

 日本の教育は基本的に教師→学生の一方向なので, 一度躓けばそれがジワジワと積み重なって結果に影響します.

 数学は良くも悪くも「積み重ね」なので, 暗記に頼ったりただひたすら解き続けて慣れる他ない…という方が少なくありません.

 

 もちろん全体の流れをじっくり説明すればそんな「数学嫌い」はかなり減ると思うんですが, 時間は有限ですから授業でできる「説明」にも限りがあります.

 

 本来であれば数学もまた互いに説明し合う, 議論し合うべきです.

 自分で考え, 議論し合う事でその真偽を確かめるのもまた教育のため, 引いては個々人のためになります.

 

 そう言う意味では「論理的思考を養う」は強ち間違ってはいないでしょう.

 現に日本は学生のうちに「議論」する機会は殆どありません.

 そういう意味では質問サイトというのは議論し合える貴重な場なのかもしれません(正しく利用すればの話ですが).

 

 

国際化の波

 ここ暫くの流れで, 国際化に対して英語教育に力を入れる事が多いと思います.

 それはそれで構いませんが, まず日本語による語彙力や説明する能力を養わなければ, いくら英語を学んだとしても, 日本語ですら説明できないものを英語で伝えられる訳がありません.

 まして日本の学校で学ぶ「それ」はネイティブでなく何だかんだ頑なに受験を前提にした「学術英語」です.

 義務教育でやってきた国語だけで日本語がペラペラになるか…という話ですよ.

 

 先の「議論」も然りで, 国際化を謳うなら, 日本はいい加減受験偏向から本当に脱却しなければ口だけのまま世界から取り残されてしまうかもしれません.

 日本って, 海外を参考にすること自体は他の国でもありますから良いとして, 中途半端に採用してそれまでの悪いモノ, 足枷となるものを棄てないから結局台無しにしてしまうんですよね…

 

 

 何をするにも, 伝えたいことを相手に正しく理解してもらうにはつまるところ数学だ英語だ…の前に国語力という事ですね.

 そしてこの力は学問以前に日常生活で無くてはならない力です.

 

 大学受験までならその力に欠けていても何とかごり押しで通用しますが, 大学入学後はもう通用しません.

 

 まして「相手に正しく理解してもらう能力」は学問に限らず日常にも有益な能力です.

 

 その能力が一定以上あるならば, 例えば

 

  • { \displaystyle \sqrt{6} } を整数にするといくつですか?
  • { \displaystyle x^4-4 } を因数分解してください

 

と言った愚問はあり得ない訳です.

 

「数学って将来役に立つの?」と言う立場でも言われる立場でも, その答えを相手に伝えられるかどうか, ちょっと考えてみてはどうでしょうか?

 

 それこそこれ自体を議題として議論し合うのも有益でしょうね, 当然数学だけでなく学問そのものもです.

 

【数学】「ありえない数」を扱う

impossible numbers

  現在人が扱っている数は, それまで認められなかったものを含んでいます.

 過去現在当たり前に使っている { \displaystyle 0 } や負数, 実数などは「あり得ない」とされてきた地域・過去があります.

 

 

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「数と量」

 今でこそこの二つを自然に結びつける事に違和感を感じることは少ないでしょうが, 過去, 特にヨーロッパではこの二つは別モノとして扱われてきました.

 

 つまり

 

  1. 数:モノの個数を表すのに使われ,基数とも呼ぶ
  2. 量:互いに大小が比較出来る長さや大きさなどに使われるモノ

 

と分けられました.

 

 「量」は同一種でしか比較できないなどの考えもあり, 結果これを改め, 言うならば「現代数学」へと昇華したのは19世紀になってからになります.

 

 対してインドや中国圏ではそう言った概念の別に寛容で, それ故か負数やゼロの存在, 概念としての扱いは比較的古くからなされてきました.

 

 量とは則ち日常に即したものであり, 例えば実数がそうであるように, 数概念を構成するに当たって量の考え方は障壁とも言えます.

 …と言うのも, 量には有理数はおろか, 負数, いや { \displaystyle 0 } も認められないからです.

 { \displaystyle 0 } の発見の歴史がそうであるように, 量の概念には { \displaystyle 0 } すらも想定されていないのです.

 これは実数を構成するどころではありません.

 

 とは言っても量を完全に否定するものではありません.

 寧ろ数は量の概念があったからこそであり, 言いかえれば「自然数(正整数)から如何に数を拡張するか」が実数へ, そしてその先へと拡張が行われる基礎であることに間違いありません.

 

 そして現代を生きる我々は, もはや量だけでは足りない生活を送っています.

 

 

「認める」歴史

 我々は既に複素数はもちろん, 実数も有理数も負数も { \displaystyle 0 } も, その内容に多少の違いこそあれ認めていることでしょう.

 「いや, 虚数はそんなことない」と思う方も居られるかもしれませんね.

 

 これまでのヨーロッパでそうだったように, つまるところそれまで

 

「認めなかったもの」
「存在する訳がないもの」
「有り得ないもの」

 

をどう認めるか, 納得するか…の繰り返しでした.

 逆に言えば数と量を分けて考えた歴史から, それを数と扱うか…について一歩引いてしまっていたのです.

 

単純な例であれば以下のようなものです.

 

  • { \displaystyle x+1=1 } なる { \displaystyle x } は存在するのか
  • 存在するとしてもそれを数と認めるべきか

 

 個人が主張しても, 万人が納得しなければ意味がありません.

 

 { \displaystyle 0 } にしても負数にしても, その表現や示し方に違いはあれど, その「今でこそ当たり前」に至る苦労は例えるなら地動説天動説の如くでした.

 

 同時に, 数と量の結びつきについても, 様々な考察を経て今に至ります.

 

 

「新しい数」を作る

 それまで量に相当する数だけで良かった時代も, 社会の発展や数学そのものの発展により, それでは物足りない事が分かってきました.

 全てのシーンにおいてそうではありませんが, 代数学的な流れで行けば

 

  • { \displaystyle x+e=x } となる { \displaystyle e } はないものか…
    { \displaystyle 0 }
  • { \displaystyle x+a=b } となる { \displaystyle x } が必ずしも無い…
    →負数
  • { \displaystyle ax=b } となる { \displaystyle x } が必ずしも無い…
    →分数, 有理数

 

…のように, 量と言う概念に縛られず, 既存の数で対応できない数を埋めるために新しい数が構成されていきました.

 もちろん分数, 有理数辺りまでは量概念によって十分構成可能です.

 

 19〜20世紀になりこれらは「同値関係」と言う考え方でより厳密となり, この同値関係は数構成に限らず現代数学の重要な概念の一つとなります.

 

 当然, これに合わせて同値関係では到底構成できない「自然数の定義」も議論の対象となります.

 そう言う意味では数概念の厳密な体系化はまだ100年ちょっとしか経っていません.

 「当たり前」から新しい数を構成するには比較的容易いですが, 肝心の「当たり前」の何故を解決するそれは後者の比ではないということです.

 

 

「あり得ない数」をどう扱うか

 結局, 我々はそれを納得するまでその存在を認められませんし, 有り得ないとします.

 それはそれで正しいでしょう.

 

 何とか概念として理解しても, その度合いはそれぞれですし, ましてそれを量と統合して見做すなんてことは更に難しいかもしれません.

 

 我々は結局個々人が納得した範囲でしか分からないのかもしれません.

 この世界が三次元なのか四次元なのか,もっと次元が大きいのか…と言う(物理科学に寄ってますが)考えも然りです.

 

 

観測出来ない数

 しかし,ありえないからといって無視してしまうのは勿体ないです.

 仮に我々が理解している, 或いは扱っている数を総称して「観測できる数」としましょう.

 つまり「あり得ない数」は「観測できない数」です.

 

 良い例として二次方程式の解の公式を考えます, 今は中三で習うでしょうか?

 二次方程式の解には実数解でないような実係数の組み合わせが存在する事は周知の事です.

 ご存知であればそれが虚数解であることは自明ですね.

 

 しかし解の公式を習う前後ではまだ虚数解…と言うよりそもそも虚数, 複素数を習っていません.

 従って彼らには「解なし」と教えます.

 つまり彼らにとってはそのような二次方程式の解は「存在しない」し, 「観測できない数」なのです.

 

 しかし複素数を習って間もなく経てば, それは「虚数解として存在する」事を知らされます.

 それまで「存在しない」「観測できない数」であったものが突如数として認められるのです.

 

 一時的とはいえ, そんな「観測できない数」が解となりうるようなものを公式としてしまって良いものか, 公式として不完全ではないのか…と疑問に思った方もおられるかもしれません.

 

 結果論的にそれは教育課程上の都合なわけですが, それを知ることのない, 或いは虚数(複素数)を学ぶ際に誤って理解した場合, 当人にとっては「観測できない数」であり続ける可能性が出てきます.

 

 

内部対称性

 さて, 複素単位は次のように定義されていますね.

 

{ \displaystyle x^2+1=0 } の根の一つ

 

 ここで件の二次方程式の解は { \displaystyle \sqrt{-1},\,-\sqrt{-1} } の二つであることは間違いありません.

 どちらを複素単位とし, { \displaystyle i } と置くか…が疑問になりますが, 実は「どちらでも良い」が正解です.

 但し慣例として前者を採用します.

 

 この二つに関わり, 複素数には「複素共役」という関係があることもまたご存知でしょう, つまり

 

任意の複素数 { \displaystyle z=a+bi } における { \displaystyle \overline{z}=a-bi }

 

です.

 

 この { \displaystyle z }{ \displaystyle \overline{z} } は, 当然複素数の世界から見れば別の数であることは間違いないです.

 

 しかしこの2つは実数の世界で見れば, { \displaystyle a } と任意の { \displaystyle a+bi\,(b\neq 0) } との違いが分かりません.

 

 言ってみれば, 実数の世界にいる人には虚数軸やその違いは「見えない」, 「観測できない」のです.

 

 観測できない数を認める事で現時点で観測出来る数体系に問題ないか…は当然疑問視すべきですし確かめる必要があります.

 

 もし問題なければ, 観測できない架空の数であっても, ありえない数であったとしても既存の観測できる数周りの演算などに支障が無ければ十分です.

 

 特にこの複素共役のような関係は内部対称性と呼ばれ, 本来使えない(と解釈されている)はずの物理などで複素数(虚数)が用いられているのはこの内部対称性に基づきます.

 

 

 先程の数の歴史で言えば, 例えば自然数しか認めなかった時代における負数はまさに「観測できない数」であったのです.

 我々は既に負数を数としても扱っていますから, つまり観測できない数はキチンと定義することで観測できる数になりうると言えます.

 

 その意味では, 数学の本質は「ありえない量を如何に数に昇華させ, 統合するか」なのかもしれません.